どうしたんすか?と聞くと、ストーブが付かないんだけど…と。
11月にストーブがつかないのは、北の地では耐え難い。灯油ストーブの埃が気になって掃除しようとしてくれたらしいが、その際にいじって壊したかもと言われた。
深夜も深夜、4時を回ってた。修理も出来ないし。
正人さんがソファーで寝たら風邪を引くし…
「あの、嫌かもしれないんすけど、家のベッドデカいんで、よかったら一緒に寝ますか?寒いので風邪引いたら困りますし。」
『いやー、ご主人に迷惑だから。』
「あの、野郎同士だから別によくないっすか?イビキとかうるさかったらすいませんですけど…」
『本当に余計な事してすいません(汗)』
一緒に寝る事にした。
「何か、修学旅行とか学生時代とか思い出しますね、こんな感じ、大人になったらめったにないっすよね?」
『確かに、俺も結婚してからこんなのねぇかも。』
って、初めて会った人と何で床を一つにしてるこの状況に笑えた。
気付くと正人さんがスースー寝息を立てて寝ている。
正人さんから、妻の匂いがする。生前の妻は、ボディショップのボディーソープなど使っていた。
俺のは、ボディーショップのでも匂いがあまりきつくない物をチョイスしてくれていた。
多分知らずに妻のを使ったのだろう。
さっきまでは正人さんがいてくれたから淋しくなかったのに、一つ一つの面影が胸を締め付けて、僕を苦しめた。
涙がポロポロ出てきた。
会いたい。妻に。会いたい。我が子に。嗚咽に近くなりかけた時、力強くギュッと引き寄せられた。
『苦しかったり、寂しかったりしたら泣け。当たり前だろ?妻子が死んで悲しくない奴なんかいねぇから。俺は離婚だけでも辛かった。でもご主人は比べもんにならん位の悲しみに遭遇しちまったんだから。まだ25だろ?もっと本音出していいって。よく耐えた。頑張った。お前、本当偉い!って誉めてやる!今日だけは沢山泣け!49日迄は耐えなきゃって思ってたんだろ?うんと泣いていいから、俺がいても恥ずかしくなんかないから。』
そう言って、正人さんはひたすら俺を強く抱き締めて、頭を軽くトントンと子供をあやすように慰めてくれた。
俺は優しい言葉に打たれた。正人さんだって離婚して間もなかった。細かい話は聞いてなかったけど、きっと今思えば辛かったと思う。
「正人さんが、わかんないで妻のシャンプーやボディーソープ、保湿ローション迄使うから、妻の事思い出したんですよ、正人さんが悪いんすよ!」
悪態をついて正人さんに甘えさせて貰った。
『マジで?!悪い勝手に、俺本当に気きかねぇからさ。まぁ今日はご主人を特別甘やかしてあげよう。よしよし』
何分かわからないが、正人さんの優しさに包まれたお陰で眠れた。
気づいたら、昼の12時。正人さんはもういなかった。
仕事に行ったようだった。起きたら驚いた。
正人さんは朝食を作ってくれていた。ホテルの朝食のようだった。
【朝飯は大事!しっかり食べて、しっかり睡眠取って、休む時は休もう。借りたスウェット(パンツは買いますから。)はクリーニングに出して返すから。また遊びに来ます!090-****-****何かあったら電話して!】と置き手紙をして帰ったようだった。
妻がいつも電話で「本当にお世話になってるの、帰って来たら絶対会って欲しい!絶対あなたと気合うから!」といつも言っていた。
妻が、本当に全員に面倒見がいいと言っていた上司は正人さんだったんだなぁと思い、妻と子の写真を、正人さんと飾った写真を見ながら、朝食を食べた。
食べ終わった時、何も考えず、手紙に書かれてた番号を見て、電話をした。
よくわからないけど、正人さんに会いたかった。
話したい。空虚な今の自分を埋めてくれると勝手に思って電話した。
『もしもし?』正人さんの声。
「あの、私、あの…」何て言っていいのかわからない。妻の上司だったけど、俺はただの部下の夫。電話を掛けた後、混乱してしまった。
『ご主人?もしかして?掛けてきてくれたんだー、ありがと。番号登録していい?』
「あー、はい(汗)あの何から何まですいませんでした。あの、昨日の今日で申し訳ないんですが、お礼に、食事でもいかがですか?」
何だかおかしな事になってきた。女性をデートに誘うみたいな口調。
『全然気にしないでいいよ(笑)でも食事行こう!俺いつも一人だから寂しいし、確かご主人一週間休み貰ったんだよね?俺も明日から3連休だから飲みに行こうや!』
約束をした。PM8時に。