櫻井先輩は、まだ照れていた。
この人だけになら、なんでも話せるかもしれない…。
その時、ふとそう思った。
「今からどこに行くんですか?」
少し声を張り上げて言った。
「カァラァオォケェ。俺のおごりでいいよ」
先輩は嬉しそうに言っている気がした。
俺も嬉しかった。先輩のおごりで。
カラオケボックスに着いた。
先輩は手続きを済ませていた。
俺は後ろで先輩を見ていた。
「杁月終わったよ」
手続きが終わったことを知らされて、二階にあるカラオケボックスの中に入った。
3年の中では学校帰りのカラオケは珍しくないらしい。
「てかさあ。今度学校一日タコって遊ぼうぜー」
「一日ぐらいいいですけど…なんで俺なんかと…?」
「はあ?」
「だ、だから…別に俺じゃなくても同級生とか2年とかいるじゃないですか」
俺は動揺していた。
「まあ…いいじゃん」
「はあ…」
「てか敬語なんて堅苦しいからさあ。タメ口でいいよ」
先輩は俺のほうを向いて笑顔で言った。
「はあ…」
「じゃあお前のことイリちゃんて呼ぶわ」
「まあ…なんでもいいですよ」
「じゃあ俺から歌うわ」
きっとこの人は歌うことよりも話すことが好きなのだろう。でも歌はうまくて、歌ってる姿は惚れ惚れした。
「じゃあイリちゃんの番ね」
採点で歌い始めた。
歌は人前では歌えない。合唱も口パクがほとんど。歌ったことなんてあまりない。歌のテストの点数も最悪だった。
「うまいじゃん。てかなんかかわいいなあ」
そう言われて俺は下をむいてしまった。はずかしかった。
「なあイリちゃん……」
そう言うと先輩は近づいてきた。
「な…なんですか…」
「俺さあ…」
「……はい」
俺は答えると先輩は、
「俺さあ…お前のことすっげー好きなんだよ」
と言って俺を抱いた。