広島少年院(広島県東広島市)の5教官による収容少年暴行事件は、特別公務員暴行陵虐罪に問われた法務教官3人(求刑懲役2〜3年)の判決公判が15、17両日に広島地裁で開かれる。「
暴力をふるうな」と教えるべき教官が少年を暴行するという矛盾に満ちた事件。被害に遭った少年(19)は産経新聞の取材に応じ、「毎日のように暴行されるうちに、殴られるのが当たり前の感覚に陥った」と収容中の体験を振り返った。
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少年は昨年9月、広島少年院に入所。その後、事件発覚までの間、ほぼ毎日暴行を受けたという。
暴行の現場は主に監視カメラがない浴場。扉とカーテンを閉じた密室で馬乗りになって殴られ、「死ね」「殺す」と罵声(ばせい)を浴びせられたという。
複数の教官に笑いながら暴行されたことも。気ままに暴力をふるい、楽しんでいるようにさえ見えた。しかし少年は「まだ自分はましな方でした」と話す。
捜査当局や法務省のこれまでの調べで、シーツで首を絞められたり、舌をはさみで挟まれたりした収容者がいたことが判明。ストレスが原因で抑鬱(よくうつ)症状などが起こる「適応障害」と診断された収容者もいる。
少年は「理不尽な暴行に腹を立てたこともあるが、抵抗すればもっとひどい目に遭うと思った」と話す。
処遇について苦情があれば院長と面接できるのは知っていたが、まず教官に希望を伝えなければならないため断念したという。同省によると、広島少年院では平成19〜20年に、院長面接は一度も行われていない。
事件発覚後、少年は広島地検に被害状況を聴取され、教官同士の業務引き継ぎ簿に「○○を殺した」と何度も自分の名前が登場することを知らされた。
暴行をしていなかった教官も、引き継ぎ簿から暴行があることを知っていながら、知らんぷりをしていたことに愕然(がくぜん)とした。問いつめると、素直に謝る教官がいる一方、
最後まで「おれは引き継ぎ簿を見ていない」と否定した教官もいたという。
少年は9月に少年院を出たが、時折、暴行を受けた教官の顔を思いだす。そのたびに「あんな大人にはなりたくない」と強く思うという。
■広島少年院教官暴行事件 広島地検は、元首席専門官(48)=起訴休職中=と27〜43歳の法務教官4人(いずれも懲戒免職)が平成17〜21年ごろ、収容少年26人に計43件の暴行を加えたとして、
特別公務員暴行陵虐罪で逮捕、起訴した。公判で元首席専門官は「指導だった」と無罪を主張。
法務教官のうち1人は実刑判決を受け、不服として控訴。3人は懲役2〜3年を求刑されている。