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僕が高校生の時に読んだ時代小説に、次のような場面がありました。
女の膝を枕に男が寝転んでいる。
その男に、女はそっと唇を寄せていく。
女はわけがあってその男を激しく憎んでいた。
が、男はそれを知らない。
女の寄せたその唇を、むさぶるように吸った。
と、たちまち男は苦悶に胸を掻きむしって死んでしまう。
女の口には毒が含まれていたのだ。
男はその毒を飲み込んで死んだ。
僕はこの小説を読んで、何かひどく心がさむざむとしたことを覚えている。
そして、自分の唇を鏡の中に見つめたものでした。
本来キッスは愛の現れである筈です。
憎い人間、嫌いな人間に対してとてもキッスなどできるものではない。
たとえ娼婦(夫)でも、少し性根ある女(男)は、客に唇を許さぬものだと
聞いたことがあります。
その唇は、自分が心から愛するただひとりのために、大事にしていること
なのだろうと思う。
ですから、唇は、言ってみれば、人間の心を現す重要なものかも知れません。
僕たちの唇からでる言葉は魂から出る言葉の筈です。
そしてまたこの唇は自分の命を養う糧もこの唇を通って体にはいります。
ですから肉体にとっても重要な関門です。
僕は「この唇を許す」ということは、誰にでもなすべきことではないと
思います。