性同一性障害
性には生物学的な「雌、雄」の区別としての性別sexと、自分が「女、男」であると自己意識、あるいは自己認知する性(gender)がある。一般にはその両者は一致しているが、なかには両者が一致しておらず、生物学的性別と性の自己意識の不一致に悩む人たちがおり、そのような障害を性同一性障害とよび、次のような症状を呈することが多い。
(1)自らの性別を嫌悪あるいは忌避する
自分の性器が間違っている、自分の性器はなかったらよかったと考える。月経や乳房の膨らみなどに対する嫌悪感が強い。
(2)反対の性別に対する強く、持続的な同一感
反対の性別になりたいと強く望み、反対の性別としての服装、遊びなどを好む。
(3)反対の性別としての性役割を求める
日常生活のなかでも反対の性別として行動したり、義務を果たし、家庭、職場、社会的人間関係のなかで、あるいは儀式や身のこなし、ことば遣い、いろいろの場面で、反対の性別としての性役割をとることを求め、実際そのようにする。
ただし、これらの行為や服装の倒錯が性的快感と結び付かないところが性嗜好(しこう)障害と異なるところである。また、
これらのもののうち、性の転換を考え、
また実際に転換しようとするものを性転換症とよぶ。
このような性同一性障害の人たちがどのくらい存在するかに関する正確な調査はなく、アメリカの報告で男性成人の2万4000〜3万7000人に1人、女性では10万3000〜15万人に1人との報告があるが、調査の方法などによってもその数に開きがある。また、
自らの性別に違和感を感じている、いわゆる性別違和の人たちも含めるとさらに数は多くなる。
治療は精神療法、ホルモン療法ならびに手術治療を段階を追って行うこととされ、そのためには関連領域の専門家が診断と治療のための医療チームを組み、慎重に判断することが求められる。
日本では1969年(昭和44)に性転換手術が優生保護法違反に問われ、それ以来、公には治療がなされなかったために、多くの人が性別違和に苦しんできたが、
96年(平成8)に埼玉医科大学倫理委員会が一定の基準の下に行うことを条件に性転換術(性別適合手術)を正当な医療行為と認め、
その後日本精神神経学会が診断と治療のガイドラインを策定し、日本でも正式な医療として認められるようになった。