▼さくさん:
乳児期や幼少期に、両親(養育者)から各種の児童虐待を受けた子どもは、自己否定的な認知や将来に対する悲観的な予測が強くなり、自己破壊的な行動(リストカットやODなどの自傷行為)や自己破滅的な逸脱(反社会性のある行為や性的逸脱、暴力、非行など)を行うリスクが高くなる傾向があります。
しかし、幼少期に虐待や愛情不足があって内面的な苦痛やトラウマが残っていても、性格的な歪みが起こらず、良好な信頼関係を他者と結べる人も数多くいます。
幼少期の外傷体験は、確かに各種精神疾患や生活不適応のリスクファクターとなり得ますが、職業活動や家族形成などの人間関係に何の支障も来たさないケースもあり、被虐待者やアダルトチルドレンであるからメンタルヘルスに障害を起こすとは一概には言えません。
ですから、トラウマ関連事象の記憶を無理矢理に思い出して、それに原因を帰属させるような対処はかえって逆効果となる恐れがありますし、日常生活や社会活動に特段の支障がない場合には過去のトラウマに関連する記憶よりも現在の生活行動の問題の解決に注力したほうが良いケースが多くあります。
ここでは、『トラウマの影響の個別性と相対性』を前提として以下の記事を書いていきますので、トラウマの体験があっても必ずしも世代間連鎖や人格上の問題が起こるわけではないという事を理解することが大切です。トラウマがあるから、自分は将来、子どもを虐待してしまうのではないかとかトラウマのせいで依存的で回避的な性格になってしまうのではないかといった『将来に対する過度に悲観的な予測』を行うべきではありませんし、予期不安への意識集中を行って精神交互作用の悪影響(心身症状)を引き出すべきでもないということです。
トラウマが人間の精神や行動に与える悪影響の本質は、『自己否定的認知と自尊感情の欠落』ですが、トラウマにまつわる記憶や感情の要素を排除しようとする『否認の防衛機制』によって解離現象が精神症状として起こってくることもあります。
人生を生きる過程で遭遇した事件・事故・犯罪・虐待などの強烈な外傷体験が何らかの影響を与えて発症する精神疾患として良く知られているものに『PTSD、境界性人格障害、自己愛性人格障害、演技性人格障害、解離性障害、摂食障害、うつ病、統合失調症(精神分裂病)』などがあります。
ここでは、トラウマと相関関係のある全ての精神疾患についての説明をする余裕はありませんが、『トラウマの再現性』をキーワードとして、リストカット症候群やODに象徴的な『自傷行為』とトラウマです。