結局、僕は彼と話すことも目をあわせることもなく、その日を終えた。
もしかしたら、また次の新歓で会えるのかも。そんな期待をしていたかどうか、今ではもう思い出せない。
けど、その日から彼は、確実に僕の記憶のなかに生きていた。
決して恋したわけじゃない、決して追いかけてたわけじゃない。
けど、その日からあいつを、僕は忘れることができなかった。
再会を果たしたのは、意外な場所だった。
きっと、あの風貌と体格からして、運動部に入ってしまったと思っていた。
そういう自分も、流れに気ままに身を任せていたら、気づいたら演劇サークルに所属していたわけで、
結局あの鬼のような新歓はなんだったのだろうと、ばかばかしくなってしまう。
いくつかある演劇サークルは、別々に活動するものの、公演の準備はみんなで一緒に行うのが慣例だ。
だから、他の演劇サークルの人とも、すぐに仲良くなれる。
彼を見つけたのは、初めて彼をみたときから、もうすぐ一年が過ぎようとしていた日のことだった。
「あ。」
「どした?」
「あの人って、お前んとこのひと?」
「ん?あ、川島?うん、そうだよ。同期。知り合いなん?」
「ああ、いや、去年の新歓ときにみかけてさ。なんか印象的で覚えてた。」
「まああんなだからな(笑)」
遠くで、そんな会話をしただけだった。役者をやっているらしい。
嬉しかった。心がほっこりした。
もう二度と会う事なんてないだろうと思ってたけど、同じ空間にいることが不思議だった。
「今度あいつが主役やで。」
「まじか。すげーな。まあ見た目インパクトあるしね」
「お前よか主役っぽいわなw」
「うるせーよ!」
僕も、前回公演で主役はっていた。意外な共通点に、親近感が増した。
今度話しかけてみよう、仲良くなりたい。
最初はそれしか思ってなかった。恋心?そんなものはまだなかった。
だって、イケメンと仲良くなっといて、損はないでしょ?(笑)
結局、彼とちゃんと話をしたのは、彼が主役だった公演が終わり、片付けをみんなでしている最中のことだった。
そのときには、もう君に恋してたのかな。
何を話したかも、どうして話せたのかも覚えてないけど、
その日から確実に、君の存在が少しずつ、僕のなかで大きくなった。
これはきっと、一目惚れだったんだ。
そう気づいたときには、僕はもう恋に落ちてた。