その日以来、シンは病院にお見舞いに行く時は「病院に行く」と言う様になった。
ちょっと気は楽になったのかな。俺もそれを見て、就活で疲れてんのに大変だなぁと思ったりした。
就活やらお見舞いやらで忙しそうな所で俺がシンに手を出したら、シンがブッ倒れそうな気がするので、俺は我慢する。
ほんとはちょっと関係を進めたいし、進められそうな場面もあったりする。
シンが俺の部屋のダブルベッドが前から気になってるっていうんで、寝転がせてみたりとか、
ネクタイ貸す時に、お互いの結び方を教え合ったりとか、ぶっちゃけ襲おうと思えばいつでも襲えた。
が、俺は我慢した。そんな時はシュウに愚痴をぶつける。
シュウも最初の方こそ
「お前いつの間に好きになってたの。」
なんて言ってたりしたけど、最近は慣れたらしい。我慢した方が良いとアドバイスしたりもしてくる。
こんないちゃつき寸前の生活してるのも、ひとえにシンが「俺がシンをタイプではない」
ということをいまだに信じ続けているからであるが、とっくにそれは崩壊している。
シュウの話では、半々の確率でシンを俺が襲っても抵抗しないとのことだが、まぁせめて就活が終わるまで待とう。
そんなもやもやな生活が続く中、ある日二人で晩飯を食ってるとシンが
「俺もうすぐ内定出るかもしれない。まだわかんないけど。」
4月中旬の話だった。
「あ、そうなの?良かったじゃん!あと少し頑張れよ〜。」
「うんありがとう。だから、カズさんもそろそろ次の相手探し始めた方が良いかも。」
そう言われて俺は固まる。そうだ。そんな話だった。
俺が持った茶碗を見つめたまま箸の動きを止めてるのを見て、シンは
「どしたの?俺なんか変なこと言った?汗」
と不安そうな表情。俺は一呼吸置いて
「いや、なんでもないよ。ちょっとその条件俺が忘れてたw」
「そっかw なんか俺も馴染んじゃったもんなw」
「就職は東京でするのか?」
「うん、その予定ー。転勤も無い職場選んでる。」
なんて話をしながら、俺は考えていた。
シンが就活が終わってもルームシェアは続くもんだといつの間にか思っていた。
確かに最初の話では、シンの進路が決まり次第、シンは出て行く。なぜなら俺はいつか恋人とここで住みたいからだ。
だから今のシンの話におかしな所は一つもない。おかしいのは俺のシンに対する気持ちと、シンの認識のズレである。
俺は今シンが好きだ。
契約延長の打診をここでするということは、俺がシンに気持ちを伝えることと一緒であり、でもそれはシンの就活終了まで待つという今の方針に反する。
今、結構瀬戸際に立っているかもしれない。
早くしないと、シンは就活を進めつつ、引越しの準備もしてしまうかもしれない。
ちょっと軽くで良いからシンの気持ちを確かめておく必要がありそうだった。