雨がしんしんと
音をたてて降っている
僕はバス停のベンチに座りながら
屋根のある小屋の下で
あいつを待っている
『話がある』
なんて言われて
気持ちいいはずはない
僕は重たい雲の覆う
空を見上げながら
音も流さず
イヤホンを耳に付けた
雨音が遠のき
まぶたを閉じれば自分の世界
雨と土がぶつかり
懐かしい匂いがした
思い返せば1年前
付き合った頃は毎日楽しくて
行ったことのない場所ばかりで
すべてがキラキラ輝いていて
最近はケンカばかりだった
甘えた子供みたいに突っ伏して
聞き分けがなくなって
我慢しなくなって
でもそれは
ケンカだったのかな
甘えてるということは
心を許しているから
ということはないのか
それについて僕は
気づいていたのだろうか
それはきっと
どのカップルにも訪れる
当たり前のコミュニケーション
恋から愛にかわる
大事なシグナル
それについてあいつは
気づいていたのだろうか
雨がやんで
雲間から光が射し込む
気づくと近くで
濡れた土を踏む小さな足音
僕はイヤホンを外し
ベンチを立って
濡れた土草にむかって
ゆっくり口を開いた
「話がある」