部屋の真ん中で仰向けに寝ながら
天井をじっと見つめる
仕事は休み
予定は入れず
蝉の鳴き声が窓を揺らす
なにもしたくない
わけじゃない
なにかしたいという
わけでもない
ただじっとこうしていると
心が静かに潤って
時間に終われている毎日を
贅沢に過ごしている気分になる
風で揺れるカレンダーをみる
こうやって裸で過ごしていると
ノンケもゲイもかわりはしないなって
つくづくおもうのに
顔があって鼻がついてて
他のやつらと変わらない
チンコもついてて
ただそれでも
きっとまわりは
そうさせてはくれないのだろう
悲しいとか
悔しいとか
そういうのじゃなくて
ただただ煩わしく
真面目に仕事にも取り組んでいるし
下からきた後輩たちもしっかり育てている
20代後半の
イチ人間社会人として
人生を全うしているというのに
世界がそうさせまいと
動いているかのように
耳うるさく鳴く蝉が
ふっと消える
「おい」
あたまのうえから声が聞こえた
「…やあ、ハニー」
ゴツッと
冷たいビニール袋が
額にぶつかった
「あいた」
「携帯くらい電源つけとけよ」
合カギをクルクルと指で回す
「いやぁ職業柄休みの日は消してるもんで」
「連絡つかなかったら意味ないだろ」
「意味あるし」
「ないよ」
「ある!」
「はあ?」
よっと起き上がって
「こうやって会いにきてくれたじゃん」
あぐらをかいてニッコリ微笑む
きっとおれらは
異端なんだとおもう
「…同い年とは思えねえな」
それでも
みんなと同じように
息もしているし
みんなと同じように
恋もする
同級生の結婚式にはご祝儀も出すし
犯罪歴だってない
「…着替えろ、出掛けるぞ」
であるならば
どうかそうっとしておいてほしい
どうか見なかったことにしてほしい
扉が閉まる
だれもいない暗い部屋の外から
声が聞こえてくる
「逮捕してーん…イケメン警察官さーん!」
「ちょ、離れろ!エロ消防士…!」
窓際に貼られたカレンダーに
『記念日』の3文字
もし街のどこかで
笑いながら暑苦しく肩を組んでいる
おれらとすれ違ったなら
どうかそいつらは人間です
秘密にしてあげてください
【終】