「ありがとうございましたー!」
最後の客を見送りして、安心した。
バイト初日はなんとか事なきを得た。
「じゃあどんどん下げて、中にいる裕司にパスしてください。あと、明日のセットするまでが閉め作業です。明日の予約表はこれ。これと照らし合わせてセットしていってください。」
そう言うと秋山さんはフロントにあるパソコンとにらめっこをし始めた。どうやら事務作業があるらしい。
「あのー、忙しいところ申し訳ないんですが、セットの仕方教わってません…」
「あっ、そうか。そうでした。そうだなぁ。
(インカム)西尾さん西尾さん、フロントに来れますか。」
と、今日一緒に働いていた西尾さんを呼び出した。「はい。」と返事と共に、西尾さんがやって来た。
「なぁにぃ。」
西尾さんは綺麗な女性で、裕司と話してるところを見ると、気さくでちょっと面白い人だ。
ただ、何故怪訝な顔をしてやって来たのかは謎。
「秋山さんにセットの仕方教えてやって。それだけだからそんな嫌そうな顔して来ないで。」
「あっ、お願いします。」
軽く会釈をした。
「はーい。じゃあこっちに来てください。」
そういう西尾さんについていった。
セットの仕方を大体教わったら、同じようなテーブルが6つ並んでいたので、そこのセットを任された。
「どうもありがとうございます。」
「そういえば一平からすごい無茶振りされてましたよね。初日からハンディ打つ人なんて初めて見ました。」
やっぱりスパルタじゃねーかよ。
「きつかったけど、秋山さんフォローしてくれてなんとかなりました。きつかったけど…」
そんな感じで西尾さんと話しながらセットと片付けをしていると、裕司がやって来た。
「耕一、今週の金曜出勤だよな?営業終わってから飲みに行かないか?歓迎会をしようと思って。」
「出勤なのかなぁ?まだシフト決まってないはず、俺がなんも提出してないから。」
「え?明日も明後日も金曜もお前の名前あったけど?」
裕司は片眉をあげて不思議そうな顔をした。
「え?本当に?何それ聞いてない。」
お返しにこっちも不思議そうな顔をしてやった。
「高尾さんだ…」
西尾さんが顔を反らし呟いた。
「あー、高尾さんの仕業か。もう耕一を育てまくるつもりなのな。高尾さんに確認してみろよ。今レジ〆やってるはず。」
急いでレジに駆け込んだ。
「高尾さん、僕のシフトできちゃってるんですか?」
「お!耕一お疲れ様!出来てるぞ、月曜以外は出られるってことで、人足りない日は入ってもらってる。あっ、はい、シフト表。」
そう言って手渡されたシフト表には俺の名前も追加されていて、週4ペースで入れられていた。
「秋山さん、大丈夫ですか?高尾さん勝手にシフト入れちゃったみたいですけど、無理なものは無理と言ったほうがいいですよ。」
そう言うと秋山さんは高尾さんの方を見た。
見られた高尾さんはバツの悪い顔をした。
「だ、大丈夫です。予定入ってる日はシフト入ってないみたいなので。」
ただ三連勤とかきついからやめて欲しかったのが本音。
とりあえず金曜も出勤なことを確認した俺は裕司に歓迎会に出ることを伝えた。
「歓迎会久しぶりだー。存分に飲もうぜ!飲みの席でこそ輪は広がったりするもんだ。」
ふと、思った。秋山さんは来るのだろうか。
「なぁ、秋山さんも来るのか?」
「来ると思うぞ。あいつ飲むぞー。淡々と緑茶ハイ飲んでる。なんだ、一平と話したいこととかあんのか?」
「あるよ。謎が多いんだよ。」
「まぁな、まっ、とりあえず参加了解。予算は3000円ってところだから。」
「裕司、これ最後のバッシングー。」
西尾さんが気怠そうに運んで来た。
「あいよー。西尾も来るだろ、金曜の歓迎会。」
「行くよー。」
「集まって飲み自体久しぶりだよな。」
「なぁ、何人くらい集まるんだ?」
「んーとそうだなぁ。30人前後ってところかな。」
「結構集まるのな。」
「おう!楽しみにしとけ!」
単純に楽しみだった。みんなでワイワイ飲むのも好きだし、秋山さんと話してみたいとも思っていた。
ふと、一瞬、澄乃のことが頭を過ぎった。
「最近会ってない。」
これからバイトで忙しくなっていく中、澄乃には今度いつ会うのだろう。
いつ会いたいと思うのだろう。
いつ言い訳を止めるのだろう。
「耕一、どうした?ボーッとして。」
「…いや、何でもない。」
とりあえず働こう。セットして早く帰りたい。
全ての閉め作業が終わったのが0時15分で、その日はヘトヘトになりながら家路を辿った。