白浜の町で散歩して、土産を買って、軽く昼飯を食って、ただただフツーに過ごした大みそか前の寒い昼間。
こんなに特別な事が無くったって、やっぱり好きな人と一緒にいられるって事が幸せなんだってつくづく実感した。
たくさん写真を撮って、たくさん笑って、たくさんしゃべって。
こんなにも平和な時間、いつまでもいつまでも終わらないでいて欲しい。
でも、きいちゃんはいずれ一生を誓い合える美しい女の人と知り合い、結婚して、子供に恵まれて、温かい家庭を築き上げて、俺はきっと、きいちゃんとその美人な奥さんの究極の遺伝子を受け継いだ、それは可愛い可愛い子供達のおじちゃんになるのかな・・・。
そうなった時、多分俺は、潔く身を引く。
きいちゃんと別れなきゃいけないってなったら、きっと泣いたりするのかも知れないけど、俺は何よりもきいちゃんの幸せを願いたいって思える。
一緒に眠ったり、キスしたり、狭い湯船で後ろから抱かれたり、愛し合ったり出来なくなるけど、俺ときいちゃんは、末長く大親友として付き合っていけるってのには一寸の狂いも無い。醜い別れ方なんて、絶対に起こり得ないって思ってる。正式に恋人関係になってまだ半年すら経たないこの時、すでにこんなに心を決められていたのは、何を隠そう、俺がきいちゃんを本当に想ってるからだと思うし、きいちゃんだって俺をものすごく大事に思ってくれてるから。
99%の友情と1%の妥協から始まったこの関係。
日に日に妥協という言葉が消えうせて来た。それは俺もきいちゃんも思っている事。
俺は、旅行を満喫してるきいちゃんの、屈託のない笑顔を目にしながら、そんな事を考えてたんだ。
俺「きいちゃん。」
霧斗「ん?^^」
俺「・・・いや・・・何でも無い^^。」
霧斗「何だよ〜!^^言いかけたんなら言えって!」
俺「今は言えない!」
霧斗「じゃあいつ言えんの??^^」
俺「ん〜・・・今んとこ未定で^^;」
霧斗「サイアク・・・^^;」
俺「サイアクはねえだろ!!=_=」
霧斗「だってメチャ気になんだもん!」
俺「とにかく今は言えない!」
霧斗「分かったよ^^; 気長に待ってやるか。」
俺「きっと近い将来言うかもしんないから。」
霧斗「でも何だか気になんなぁ^^; ヒントくれよ!」
俺「え〜・・・ヒントぉ・・・逆に分かんねえよ^^;」
霧斗「ん〜・・・じゃあ我慢する・・・−_−」
俺「ゴメンな。^^」
言いかけた俺は、何とかとりあえず抑えた。
今話す事じゃ無い。
大学卒業したら言おう。うん。
もしそれまで、俺たちが恋人関係を続けていられたら言おう。
霧斗「そろそろホテル戻る?」
俺「え、今何時?」
霧斗「3時半。」
俺「まだ早くね?」
霧斗「いや、ちょうど良いんだ。」
俺「何に?」
霧斗「今は言えない。^目^」
俺「んあ!マネしやがって!」
霧斗「ダイジョブ、1時間後には分かるよ。」
俺「1時間後??」
霧斗「良いから、とにかく部屋戻ろ^^」
きいちゃんは一体何考えてんだろ・・・。
とにかくきいちゃんの言う通り、ホテルに戻った。
***
ちょっと物足りない気もした。
土産物の袋とバッグを畳に無造作に置く。
きいちゃんは、部屋に戻るなり、熱いお茶を啜りながら窓の外を眺めていた。
霧斗「ゆうもお茶飲めよ^^」
俺「あ、ああ、アリガト。」
窓際の椅子に向かい合うように座りながら、きいちゃんが淹れてくれた緑茶を飲む。
相変わらずきいちゃんは外を見つめて、何も言葉を発さない。
きいちゃんは何を考えてんだろ・・・。
霧斗「そろそろだな。」
俺「え?」
霧斗「浜辺行こう。」
俺「あ・・・うん。」
浜辺?もうあたりは夕方のオレンジ色に近い。
ん?もしかして・・・もしかして?
霧斗「夕焼け見に行くぞ。^^」
俺「お、OK!!」
***
昨日と同じ場所。
浜辺に腰かけて、白浜の海に沈んでいくオレンジ色の夕焼けを眺める2人。
霧斗「最後にこれだけ一緒に見たかったんだ。」
俺「だからずーっと外見てたの?」
霧斗「そ。^^ ちょうどいいタイミングでお前を連れ出したかった。」
俺「・・・ありがとう・・・。」
きいちゃんの粋な計らいは、俺が今まで見てきた夕焼けの中で一番綺麗に見える。
手を握って、肩を密着させて、どんどん沈んでいく橙色の宝石を、その眼にしっかり焼きつけていた。
寒さなんて知らない。
手のひらも、肩も、心も、あったかい。
霧斗「また・・・旅行行こうな^^」
俺「うん!^^ あ、次は俺が探すから^^」
霧斗「分かった^^ でもスキー旅行だけはカンベンな^^;」
俺「分かってるよ!俺もスキー苦手だし^^;」
次旅行する時は、この白浜に負けない場所を探そうって、心に決めた。
***
あくる日、俺たちは早めに白浜を後にし、経由地点の新大阪駅に向かった。
それぞれの実家に帰る前に、大阪の有名な粉ものの昼飯。
霧斗「たこ焼き?お好み焼き?」
俺「両方!^0^」
霧斗「つか俺焼きそばも食いてえ!^0^」
俺「食いだおれでもすんのかよ^^;」
霧斗「だってここ、大阪でっせ^^」
俺「出た出たエセ訛り(笑)」
霧斗「エセって言うなや!^^; つかどうすんの?」
俺「じゃあ、全部揃ってるとこ探そ!」
結局、心斎橋で、たこ焼きを4個ずつ食べた後、鉄板焼のお店に入り、豚玉2枚と焼きそば。
大阪グルメをしっかりとお腹に詰め、店を出る頃には食べすぎで少し苦しかった。
霧斗「ふぅ〜・・・^^;」
俺「しばらく断食出来そう^^;」
霧斗「ちょっとそこで休んでこ。」
ちょうど空いてたベンチにどっしりと腰かけて、しばしの休憩。
さすがに炭水化物3連続はきつかったけど、本場はやっぱり一味違う気もした。
俺「旅行楽しかったなぁ^^」
霧斗「ああ、マジ良かったぁ^^」
俺「つかきいちゃん、東京にはいつ戻んの?」
霧斗「えーっと、4日の昼過ぎ。」
俺「じゃあ東京駅まで迎えに行ってやるよ^^」
霧斗「え、ゆうはいつ戻んの?」
俺「3日の夕方。」
霧斗「早っ!」
俺「そ〜かぁ?」
霧斗「3が日くらい実家にいれば良いじゃん。」
俺「いやその日埼玉のばあちゃんが帰るからさ、荷物持ちっつーかエスコートっつーか。」
霧斗「優しーねぇ^^」
俺「そ?^^」
霧斗「え、じゃあマジで迎えに来てくれんの?」
俺「迷わなければな^^」
霧斗「うわ何だか不安・・・つかお前そんなんでおばあちゃんエスコート出来んの?^^;」
俺「え・・・まあ看板見て行けばダイジョブだろ・・・。」
霧斗「とか言って、おばあちゃんが先導してたりすんだろうな^^」
俺「バ、バカにすんなよ・・・!」
霧斗「ハハハハハッ!!^0^」
俺「あ、つかそろそろ行かなきゃ。」
霧斗「マジ〜・・・早いなぁ・・・^^;」
俺の乗る新幹線と、きいちゃんの乗る新幹線、方向は真逆な上きいちゃんの乗る新幹線は俺のより30分強後。
俺「ホントに俺と一緒に駅来る?30分余裕あんだろ?」
霧斗「ん〜、でもお前見送りたいから^^」
俺「そうかぁ?サンキュ^^」
***
俺「じゃあ、良いお年を。」
霧斗「そっちもな^^ 皆さんにヨロシク^^」
俺「OK!^^」
数日後にはまた会えるのに、何だかちょっと寂しい。
2日間の旅行がホントに濃かったせいもあるんだろうな。
そろそろ新幹線が出る頃、俺は踵を返して乗車。
霧斗「ゆう。」
俺「ん?」
霧斗「気い付けてな^^」
俺「おう、アリガトな。^^」
発車のベルが鳴る。
俺「着いたらメールするから^^」
霧斗「分かった。^^」
プシュー・・・ガコン。
新幹線のドアが閉まり、徐々に動き始めた。
きいちゃんの姿が少しずつ見えなくなってくる。
最後まできいちゃんは手を振って俺を見送ってくれた。
きいちゃん、俺、好きになった相手がきいちゃんでホント良かった。
叶わぬ恋と思いこんだまま、2年半。
まさかきいちゃんがOKしてくれるなんて、思わなかった。
俺、きいちゃん以外好きになる事は出来ないかも知れないな。
別れる事になって、俺がまた一人身になっても、そのまま独身のまま人生を送っていくんだろうな。
でも、そうなっても、きいちゃん、お前が親友でいてくれる限り、寂しくはねえよな?
お前が温かい家庭を築いて、可愛い子供が生まれて、家族を持つという幸せを手に入れてくれるなら、それで俺は嬉しいんだ。
スピードを上げ、徐々に浜松に近づく新幹線の中、俺は柔らかな幸せをかみしめ、心が一皮むけた様に思えた。