久し振りに一人で迎える日曜日。
週末は必ずといって良いほどきいちゃんと一緒にいたから、何だか新鮮。
時計を見たらもう9時だった。
きいちゃんまだ寝てんのかな・・・?
メールしてみようかな。
――――――――――
おはよ^^
今日何時頃会う?
起きたら返事下さい。
――――――――――
送信して、俺はそのまま朝シャワーを浴びに行った。
***
いつもより長めにシャワーを浴び、ボクサーだけ穿いて、携帯をチェックする。
まだ返事がない。
9時半か・・・二日酔いなのかな・・・?
カーゴパンツと長そでシャツを着て、TVを見ながらベッドに横になった。
と、玄関から突然ノックが聞こえる。
ドアを開けると、きいちゃんがそこにいた。
髪はボサボサ、服も乱れ、ちょっと息もあがって顔面蒼白に近い。
俺「きいちゃんどしたんだよ!ボロボロじゃん!」
霧「ゴメン・・・ちょっとな・・・」
俺「ちょっとって・・・とりあえず上がれよ。」
俺はきいちゃんをベッドに座らせて、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取って差し出した。
霧「ありがと・・・。」
キャップを開け、きいちゃんは物凄い勢いでお茶を飲みまくる。
俺「何があったんだよ・・・そんな髪ボサボサで・・・。」
霧「・・・。」
きいちゃんは無言。
常に髪とか服装には気を使ってるきいちゃんが、こんなボサボサの乱れまくりのまま外に出るってありえなかった。
せっかくの長身イケメンが、まるっきり台無し。
何かあったに違いない。
でもきいちゃんは何にも言わず。
俺「何かあったんだろ?こんなカッコで外に出るって無いぞ?今まで一度も。」
この時すでに、俺は何かイヤな空気を感じていた。
もしかしたら、実はこの時点で、事の全てに感づいてたのかも知れない。
感づいていた事に気づいてなかったのか・・・。
俺はダンマリのきいちゃんが言葉を発するまで急かさずに肩をさすって気長に待った。
しばらくして、やっときいちゃんが口を開く。
霧「ゆう・・・あの・・・さ・・・」
俺「うん・・・どしたん?」
霧「俺・・・昨日な・・・」
俺「うん・・・。」
霧「合コンに行ってな・・・ベロベロになっちったっぽくてな・・・。」
俺「う・・・ん・・・。」
霧「朝起きたら・・・その・・・」
俺は次に続く言葉が・・・一瞬怖くなった。
昔から勘が鋭いって周りから言われてきた俺・・・この直感・・・当たってる・・・?
霧「知らない部屋のベッドに寝てた・・・。」
ウソだ・・・その先・・・言うな・・・
霧「全裸で・・・」
やめろ・・・
霧「女の人と・・・」
バカな・・・
俺「ヤっちゃった・・・?」
霧「・・・たぶ・・・ん・・・。」
俺「多分て何だよ・・・!」
霧「覚えてないんだ・・・その人の家に行ったことすら・・・」
俺「どういうことだよ・・・!」
霧「その・・・酔っ払い過ぎてて・・・」
俺の勘は昔から鋭かった。
今も昔も変わらない精度だった。
俺は立ち上がり、携帯も財布も何も持たずに、上着だけ引っ掴んで玄関のドアを開けた。
霧「ゆう・・・どこ行くんだよ・・・」
俺「きいちゃんには関係ない・・・」
霧「ゆう・・・頼むから・・・」
俺は、腕を掴もうとしたきいちゃんを振り払った。
俺「ついてくんなよ・・・!」
霧「ゆう・・・マジ」
俺「何も聞きたくない・・・!何にも言うな・・・!」
俺はきいちゃんを一人残してアパートを出た。
ただ歩いた。
歩いて歩いて歩きまくった。
何にも考えずに・・・いや・・・きいちゃんの事以外何も考えずに・・・
きいちゃん・・・浮気しないって・・・嘘だったのか・・・?
何で覚えてないんだ・・・
自分が女とファックした事すら覚えてない・・・
***
気がつくとどこかの住宅街の中にある小さな公園にいた。
ベンチに座って、微動だにしない。
不思議と涙は出てこないんだな。
信じてた人に裏切られたら、みんな泣いちゃうもんだと思ってた。
でも、俺は何も感じなかった。
むしろ、感覚麻痺にでもなっちまったかって位、寒さも悲しさも怒りも何も・・・感じられなかった。
あの時メールで浮気すんなよって送ったの、あれ、単なるパケットの無駄でしかなかったのか?
心配すんなってのはうわべだけだったのか?
メールの文字って・・・意味無いね。
絵文字つけても所詮はコンピュータが作った黒い線だから?
そうか・・・あの文字たちは、ただの気休めのために作られた、無垢なドットの集まりだったんだ・・・。
日曜日の昼間、子連れの母親たちが数人来てベラベラしゃべってる。
子どもたちは地面を一生懸命掘り返してる。
乳母車の赤ん坊は、手もとのおもちゃで遊んでる。
その近くで俺は、ベンチに張り付いて、生きた屍のごとく時を無駄に過ごしてる。
でも、徐々に落ち着きを取り戻してる自分にも気づいてた。
そういえばきいちゃん・・・酔っぱらうとしょっちゅう記憶失くすんだよな・・・
大学1年の時、酔っ払った勢いで始めたオナニー大会。
俺にあのデカマラを初めて見せつけ、イっちゃったまま爆睡して、朝になって「俺何でフルチン!?」って聞くありさま。
あれ以外にも、飲み会で飲み過ぎて俺が何度家まで送ったか・・・。
でもその勢いで・・・浮気までしちゃうのか・・・
酒に飲まれて女とヤって後悔するなんてバカげてる・・・
でも・・・もし酒に飲まれてなかったら・・・きいちゃんは浮気しなくて済んだのかな?
正気が残っていたなら、きいちゃんは浮気なんてしないんだろうな・・・。
きいちゃん・・・そうだろ?
お前から俺を裏切るなんてこと・・・ないよな・・・?
信じろって言ってたの・・・きいちゃんだもんな・・・?
信じても・・・良いんだよな・・・?
俺は来た道を戻って帰る事にした・・・が・・・来た道をあまり覚えていない・・・。
仕方なく俺は公園にいたお母さんたちに、近くの駅はどっちか聞くと、幸いな事に、俺の家からそこまで遠くない場所だった。
とりあえず駅に向かい、そこから家に戻った。
まだ・・・きいちゃん・・・いるかな・・・?
つか俺・・・きいちゃん残して出てったから・・・いてくれなきゃ困る・・・。
だって鍵も閉めずに、持たずに出たんだ。
帰ったらちゃんと話そう。
ちゃんと話して、仲直りしよう。
・・・そう思ってたのに・・・甘くない・・・現実・・・。