水曜日。
ホントならきいちゃんが駅で見送ってくれる約束だったけど、今回は仕方がないから一人で東京駅に向かった。
日曜日から一切メールも電話もしてない。
近所だからばったり顔を合わせるかと思ってたけど、幸か不幸か、そんな事も無く、俺は心なしかやっぱり寂しさを覚えてたけど、何とか耐えしのんでる。
メールしようか・・・いや・・・年明けまで待つか・・・
新幹線で弁当を食べながらくつろいでても、やっぱりきいちゃんの事しか考えられない自分がいる。
コンビニの鳥そぼろ弁当、いつも美味しいって思えるのに、この時ばかりは味が半減してる様に思えた。
浜松までの道のりが、いつもより長く長く感じられた。
***
母「おかえり。」
俺「ただいま。あれ、またパーマかけたの?」
母「あのねぇ、パーマじゃなくてウェーブって言ってくれる?」
俺「はいはい^^;」
浜松駅には、母が車で迎えに来てくれていた。
先の夏休みは帰省してなかったから、約1年ぶりになる。
母「でも良かったね、無事就職出来そうで。」
俺「そうだね。」
母「何だか暗いわねぇ。何かあったの?」
俺「え・・・いや、ただ何となくダルいだけだよ。東京からって結構長旅なんだから。」
母「そうねぇ。お母さんも昔は東京によく行ってたけど、新幹線じゃないとホント疲れるわ。」
俺「うん。」
母「そう言えば、霧斗君は元気なの?」
霧斗・・・その名前はやっぱり出てきちゃうんだよね。
俺「う・・・ん・・・いつも通りだよ。」
母「そ。今回もまたうなぎパイ持って行くんでしょ?もう買ってあるから。」
俺「ありがと・・・。でもそんなしょっちゅうあげても食べきれないんじゃない?」
母「大丈夫。今回はうなぎフロランタンも買ってあるから。あれは悠太も好きでしょ?」
俺「好きだけど・・・別にそういう問題じゃ・・・まあいいか。」
うなぎフロランタン、実は結構美味しい・・・。
きいちゃんも絶対気に入るはず。
きいちゃん・・・。
***
駅から30分位で、久しぶりの実家に着いた。
着くなりじいちゃんの仏壇に線香をあげ、帰宅の挨拶と、就職内定の報告をした。
母「お昼は食べたの〜?」
俺「食べた。」
母「まだ入る?」
俺「え、何があるの?」
母「稲庭うどん。」
俺「ん〜・・・食べる。」
ちょっとはお腹に入るかな。
それ以上に、母と2人で食事するってのも久々だし。
母「温かくないけど良いでしょ?」
俺「うん。つか俺稲庭うどんは冷たい方が良いし。」
母「そうよねぇ。^^」
***
14時過ぎの遅めの昼食。
母と2人きり。
のどかだなぁ・・・。
母「ねぇ。」
俺「ん?」
母「聞かないでおこうって思ってたんだけど、霧斗君とけんかでもしたの?」
俺「ング・・!」
すすってたうどんが変なとこに入って、俺は思いっきりむせた。
母「あ〜あ〜もう・・・」
俺「ゲホ・・・!あ〜あ〜じゃないよ・・・!ゲホ・・・!つか・・・何でそんな事聞くんだよ・・・!」
母「あんたねぇ、いつもの手くせが出てたの気づかなかったの?車の中でずーっと手をグーパーしてたわよ。」
言われて初めて気づくのはしょっちゅう。
俺は、嫌な事があると無意識のうちに手を閉じたり開いたりしているらしい。
前にきいちゃんの失恋の一件の時にも、きいちゃんに指摘された事があった。
母「さっき霧斗君の事聞いた時からずーっと手がパカパカしてたからね、気になったのよ。」
俺「・・・。」
母「もし霧斗君が謝ってるなら、許してあげるのも親友なんじゃない?」
俺「・・・ケホ・・・。」
母「まあ何があったかは知らないけどね、あんなに律儀で優しい男の子は最近じゃ珍しいのよ。」
俺「・・・。」
母「ああいう心優しい子って、他人を傷つけちゃうと自分も傷つくのよ。悪く言えば勝手に傷ついてるってなっちゃうけど、言い方を変えたらね、それって、他人の痛みを人一倍分かってあげられるって事なのよ。」
俺「・・・。」
「他人を傷つけると、自分も傷つく」
そんなバカな事あるのかって・・・一瞬思ったけど・・・分かる気がする。
勝手に傷ついてるって、俺は最初思ったんだ。
けど、俺を傷つけた以上に、きいちゃんは傷付いてる。だから距離を置きたくなったのかな・・・。
母「悠太が許してもね、今は霧斗君も、悠太を何かしらで傷つけちゃったから苦しいのよ。」
俺「・・・うん。」
母「悠太もお母さんに似て昔から凄く優しいから、許してるんでしょ?霧斗君の事」
俺「うん。」
母「それは霧斗君も分かってるはずなんだから、あとは向こうから歩み寄ってくるのをじっくり待ってあげなさいね。」
俺「うん。」
母の言葉は正しいって思った。
改めて、何できいちゃんが距離を置きたいって言った理由がわかった気がする。
俺「母さん。」
母「なあに?」
俺「何でケンカの原因が霧斗だって分かったの?」
母「ん〜・・・長年母親してるとね、勘が鋭くなるものなのよ。」
俺「・・・それだけ?!」
母「それだけよ。実際当たってるんでしょ?」
俺「あ・・・うん・・・。」
母「ね、お母さんの前じゃ、お父さんも嘘はつけないのよ。」
俺の鋭い勘と優しい(?)心は、どうやら母からの遺伝らしい・・・^^;
俺「つか律子(妹)とばあちゃんは?」
母「律子は今日は高校の友達とクリスマスパーティ。おばあちゃんはご近所のお友達とお昼ご飯食べに行ったわよ。・・・そろそろおばあちゃんは戻ってくるんじゃないかしら。」
俺「ばあちゃん元気だね、相変わらず。」
母「そうよ〜。こないだなんかね、ご近所同士でゲートボールの大会やって優勝したのよ。」
俺「へぇ〜。賞金とか出たの?」
母「何だかお食事券もらったらしいわよ。それ使って今日のお昼ご飯はおばあちゃんのおごりなんだって。」
俺「スゲ・・・^^」
***
きいちゃん、俺、完全に理解したよ。
距離置くのはきいちゃんが辛いからだよね。
今の今まで、何となくしか思わなかったけど、母さんの話で理解したよ。
俺はきいちゃんをいつでもまた受け入れるから。
年明けて、徐々にやり直して行こう。
付き合い始めは、きいちゃんが俺を受け入れてくれたんだ。
ヨリ戻し始めは、俺がきいちゃんを受け入れる番だね。
もっとも、ヨリ戻しって言ってみたけど
俺はきいちゃんと別れたつもりはないよ。
今のきいちゃんから出てる電波はバリ3から1本に減っちゃってるけど
俺から出てる電波はバリ3越えの強力電波だから。