少しの間があって、自分が何も言葉を発していないことに気づいた。
頭が混乱している。
「な、なに言ってんだよ。酔いすぎ」
気持ちとは裏腹に口からは全く違う言葉が出てしまう。
ベッドから起き上がり、ベッドから離れようとすると、すっと腕を掴まれた。
「待って!」
振り向くと、悠吏がまっすぐな眼差しでこちらを見つめていた。彼は腕を握ったまま
「冗談と思うかもしれないけど、俺、拓斗のことが好きなんだ。
冗談じゃない、、、、
本当に好きなんだ。」
また、時が止まる。
握ったままの腕。
返事をしたいのに、勇気が出ない。
悠吏の顔をみることもできず、ずっと下を向いてしまっている。
握られているという感覚が鮮明になってきたころ、悠吏の手の力が抜けた。
「ごめん、困らせたね、、、、ちょっと顔洗ってくる。」
と、悠吏がベッドから立ち上がり、俺の隣を過ぎ去った。
これでいいのか、、、、、。
一瞬、パキスタンで一緒に過ごした「たいき」の顔が遮る。
しかし、そのあとすぐに、この数週間であった悠吏との出来事がフラッシュバックのように脳内で再生された。
大雨のなか二人で家まで走って帰ったこと、
一緒の大学を受けていたことを「運命だ」と嬉しそうに話す顔、
3時間も待ち合わせに遅れてきたのにずっと待っていてくれたこと、
サザンテラスで満月を見つめる横顔、
頬を膨らませ、ふてくされる顔、、、、
走馬灯のように思い返された。
俺はいったい何をしているんだ。
ドアに手をかけた悠吏の腕を、今度は逆に掴んだ。
「待って!!」
悠吏が驚いたようにこちらを振り向く。
俺は腕を強く掴んだまま、悠吏をまっすぐ見つめた。
そして、覚悟を決めていった。
「悠吏、俺も悠吏のことが、、、、、好き。、、、、、好きだ!」
「え」
今度は、悠吏がキョトンとした顔になる。
「せっかく悠吏がいってくれたのに、さっきは答えられなくてごめん。
まさか、悠吏から言われると思ってなくて、、、頭が真っ白になっちゃってさ。
、、、後だしで、卑怯だけど、、、
俺も悠吏のことが好きなんだ。
最初に『けやき』で会った時から、気になってて、そのあと話してくうちに好きになって、ずっと気持ちを伝えたいと思っていたんだけど、悠吏が男が好きとも限らないし、、、
ごめん、何いってるか自分でもわからなくなってきた。。。」
それでも、悠吏の目は離さなかった、今度こそ。
悠吏も俺をずっと見つめている。
「拓斗、、、、あのさ」
「なに」
「腕、、、いたい。笑」
「え、あ!ごめん。つい。」
手を放すと、悠吏の腕に赤く手の跡が残っていた。
「悠吏、ごめん。そんなに強く、」
その瞬間、悠吏に抱きしめられた。
痛いくらいに強く。
「悠吏、い、、痛いよ。」
「ごめん」
ふわっと力が抜けたものの、そのまま離そうとしない。
俺も悠吏の背中に腕をまわす。
抱きしめながら悠吏は
「すごい、うれしい。拓斗にいろいろカマかけてたみたけど、拓斗、冷静だから分からなくて。
諦めようかと思ったこともあったけど、やっぱり好きって気持ちは変わらなくて、、、この思い伝えたくて、、、でも、嫌われたらどうしようとか思っちゃって。
それだったら、このままでもいいかなって、、、、でも、今日勇気だしてよかった。」
びっくりした。
まさか悠吏も同じ悩みを持っていたとは思わなかった。
自ら悠吏から体を離した。
そして、また悠吏の顔を見つめる。
「悠吏、ありがとう。
改めて言うけど、
俺も悠吏のこと、好きだよ。」
少し背伸びをし、そのまま顔を近づけ、唇をつけた。
口の中に悠吏の下が入ってくる。
左腕をそっと伸ばし、壁についているスイッチを押し、寝室の照明を消した。
開けっ放しのカーテンの外から入ってくる都心のネオンが二人を照らし、写真が沢山貼られた壁には抱き合った二人の影が映し出されていた。