大阪で偶然孝太さんと会ってから、2週間がたっていた。
何度かもらった名刺のアドレスにメールを送ろうとしたが、毎回書き出しまで打っては削除することを繰り返していた。
いっそ、この名刺捨ててしまおうか。
名刺を見つめながらそんなことを考えていると、タイミングよくスマホが鳴る。
画面を見るとショータからのラインであった。
ショータは、大学のサークルでよく可愛がっていた後輩で、俺がゲイとは知らずに告白した強者である。
そのときは孝太さんと付き合っていたし、そもそもそういう目でショータも見ていなかったので、丁重にお断りした。
何かの縁かショータも東京に就職になり、大学の頃とかわらない先輩・後輩の仲でよく飲んでいる。
「昇さん、大変です。」
それだけのライン。
いつも物事を大げさに言う奴なので、驚くことなく『なんだよ』と返信すると、すぐに既読になり、やり取りが続く。
「拓斗に彼氏ができました!!」
『マジか!』
拓斗は、大学が違うもののショータと京都で仲良かったゲイ友達。
ショータが俺に告白し振られた後、二人きりで飲むのが気まずかったのか、ふらっと連れてきてそこから俺が卒業するまで、よく三人で飲んでいた。
彼もまた東京で働くことになったため、彼らが東京に来てからはちょくちょく三人で飲んでいる。
「今夜三丁目のいつもの店で尋問するんで、先輩もきませんか?」
『OK!仕事終わり次第向かう!』
「待ってます。」
週の中日だが、幸いにも今日は定時退社の日なので、すぐに出れそうだ。
逆にいうと残業が出来ないため、なんとしても定時までに仕事を終わらせないと明日の朝、早めに出勤することになってしまう。
時計を見ると16時過ぎをさしていた。
「あと二時間、本気出すか。」
【18時40分】
「小東、俺もう帰るけど大丈夫?」
「大丈夫です。私もこれ片づけたら帰ります。」
と、こちらも向かずに鬼の形相をしながら、キーボードを叩いている。
「、、、。
小東、張り切ってる時に限ってタイプの人いなかったりするから、あんまり期待するなよ。」
「えっ!
なんで今日合コンて分かったんですか!?」
「普段履かない花柄のスカート。
そして、いつもよりアイラインが濃い。」
「え!うそ!!
私今日化粧濃い!?」
スマホの画面で顔を確認する。
「冗談だよ」
「も〜〜、そうやって後輩からかって〜。」
「じゃあ、お先に。」
そういうと、パソコンの電源を切り、コートを着る。
「お疲れ様でした」と小東。
デスクを離れて数歩のところで、ふと思い出し振り返った。
「でもそのスカート、男受けはいいと思うよ!!」
小東は視線をパソコンの画面に向けたまま、左手でガッツポーズをして返事をした。
オフィスから出ると、地下通路を歩き「西新宿」駅から丸の内線に乗り込む。
あっという間に新宿三丁目駅につくと、いつも俺らが飲んでいる店に向かう。
金曜日に比べたら三丁目の街も空いているものの、相変わらずどこの店も客がそれなりに入っていた。
目的の店に着くと、もうすでにショータと拓斗が飲み始めていた。
「ごめん、遅れた。」
「むしろ、いつもより早くないですか?」
と驚いたように、ショータがいう。
「昇さん、ビールでいいですか?」
と、俺のコートを受け取り、ハンガーにかける拓斗。
このさりげない気づかい、ぜひショータにも見習ってもらいたいものだといつも感じる。
「うん、生で。」
直ぐにビールが来て、乾杯する。
ドンとグラスを置くとショータが
「で、拓斗、彼氏のことみんなに紹介しな!!」
「お前、初っ端からぶっこむな〜。
ま、俺もこんだけ浮いた話がなかった拓斗に彼氏ができたなんて正直驚いたから教えてよ。」
「二人ともそうやってからかって〜」
「からかってないって、素直に聞きたいだけ。」
「まあまあ拓斗さん、お酒入ってないと話せないこともあるかと思いますし」
と、ショータが拓斗のグラスに並々と赤ワインを注いだ。
「おい、ショータやめろよ!!」
俺はその光景を見て笑いながらマルゲリータをつまみ、ビールを一気に飲み干した。