家に入ると、玄関に靴があった。テツだ。テツが帰ってきている。
ついでにリビングの電気がついている。珍しくリビングにいるのか?
おれがそっとドアを開けると、何か音楽が流れていた。
ん?珍しくテツ客を招いたのか?
更に歩を進めると、リビングにはテツ一人、ソファにもたれて、目をつぶっていた。そして机の上にはアルバムがあった。初めて見る、小さめのアルバムだった。
おれはどうしようか迷う。起こすのもためらわれるし、ただいまってのもタイミングが難しい。
そんなことを考えていると、テツがゆっくり目を開けて、そしておれに気付いてかなりびっくりしていた。
「え、あ、今日サークルのパーティじゃないの!?」
「いや、それは昨日・・・。それより今日誰か来る予定だった?」
テツは立ち上がり、CDを止める。
静寂が訪れる。
「いや、おれ、一人だよ。」
視線をそらしてそう答えるテツは顔が真っ赤だった。
さっきの穏やかなテツの顔を思い出す。
もう隠さなくて良いんだよ。おれにだってわかるよ。いや、詳しくはわかんないけどさ。
おれはテツにどう言いだそうか迷っている。
テツが口を開く
「あの、これ、その・・・おれの家って・・・!?」
おれは最後まで言わせたくなかった。
おれは気付いたらテツを抱きしめていた。
「いや、良い。テツがなんで今こうしてたのかとか、なんでルームメイトを募集してたのかとか、全部わかってる。いや、全部はわかってない。でも、大体わかる。早く気付いてやれなくてごめん。」
「っ・・・!」
「もう大丈夫だから。一人にさせねぇ。おれ卒業までここにいるし、卒業してもここにいる。テツが許してくれる限り、ここにいるから。もう一人で寂しい思いはさせねぇ・・・。」
「っ・・・くっ・・・ふっ・・・」
テツはおれの腕の中で嗚咽を漏らすと、おれを力強く抱きしめてきた。
「うぅ・・・。うあぁぁ・・・!」そう叫ぶとテツは泣き崩れた。
しゃがんで、顔を伏せて、ずっと泣きじゃくっていた。
おれも一緒にしゃがみ、テツが落ち着くのを待った。
「うっ・・・えぐっ・・・あんさ・・・おれの・・・おれの家族・・・。」
テツがとぎれとぎれに言いにくそうに話し始める。
おれはそれが辛そうで遮ってしまった。
「いや、良いよ。今無理に話さなくて良い。もっと心の整理ができてから話してくれれば良い。」
「マ・・サ・・・。」
「だから、もう大丈夫だよ。」
そういうと抱き寄せた。おれはコートのまま、テツを抱きしめた。
テツは相変わらず泣いていた。
恐らく、今までずっと溜めていたものが噴き出したのだと思う。
おれは静かにテツが気の済むまで泣き終わるのを待っていた。