その後、おれがコートをかけに部屋へ戻ると、テツがおれの部屋に入ってきた。
「どした?向こうに戻るつもりだったんだけど(笑)」
ついてくるテツが、ペットのような、年下の恋人のような可愛らしさがあってほほえましかった。
「いや、こっちの方が良い。」
そういってテツはおれの布団の上に座った。おれは隣に座る。
そこからテツが話してくれた話は、まぁおれが想像してたのとあまり変わらなかった。
結論から言うと、昔ここで共に暮らしていたテツの家族はもういない。二度とこの家には帰ってこない。
ルームシェアを募集していた6月は、最後の頼みだった母親がもう戻ってこないことがわかって1カ月した頃だった。
家のローンは払い終わっていたことが幸いだったが、でもまぁ今まで親がしてくれていたもろもろの手続きを一人でやらなければならず、さらに仕事もあって、正直家の中がぐちゃぐちゃだったという。
一人で家にいると精神もふさぎこんでくるし、かといって仕事以外で人間関係を作る気力はもう残って無くて、そこでルームメイトを募集したそうだ。
テツ自身もルームメイトを募集した前後のことは、あまり覚えていないという。
お互い干渉しない、というドライな条件をつけていれば、とりあえず大丈夫、という思考能力しか残ってなかった。
会った当時は確かに歳の割に暗いのが気がかりだったのはもう疲れてたんだな。
ちなみに、“あいつ”のことを見つめていたのは、起きた時に誰かの話し声がすることや、一緒にテレビを見るということが久しぶりすぎて、家族を重ねていただけだという。
「じゃホントに好きじゃなかったんだな。」
「だから言ったじゃん(笑)マサならわかると思うけど、ノンケに恋はしないよ。」
その時、じゃあおれは?と聞きそうになって、これはもう少ししてからにしよう、ととっさに思ってしまったおれはやっぱりヘタレなルームメイトだった。
テツは仕事をしていないとどんどん引きこもってしまいそうだから、という理由で、無理やり社会に出た強い人間だ。それに比べておれは・・・。
話をしていると、テツは連日の勤務からか、眠そうだった。
「テツもう寝た方がよくない?」
「うん、ちょっと眠い・・・。」
そう言って立ち上がる。
おれは手をつかもうか迷った。
正直さっきリビングでテツを抱きしめていた時、いつかまた抱きしめてしまいそうな自分に気付いていたのだ。
迷っていると、テツはさっさと部屋を出ていく。
「おやすみ。今日はありがとう。」
「・・・うん、おやすみ。」
テツは笑ってドアを閉めようとする。
「待って!」おれは呼びとめる。
テツは怪訝そうな顔で振りむく。
「今日、一緒の部屋で寝ない?クリスマスだし・・・さ。」
いつだったか、敬語をやめようと言った時をおれは思い出した。
「別に良いけど、マサも寂しがりなんだなぁ(笑)」
そういってテツは
「じゃ布団持ってくるから待ってて。」だめだ。伝わってない。
「いや、あの、一緒の布団で寝たいんだけど。」
そう言うとテツはびっくりした顔をしていた。
おれはもう黙ってテツのところまで行って、抱きかかえた
「あ、っちょっと・・・。」
「今日は一緒にこれで寝よう。」
そういって布団まで運ぶ。後ろから抱くようにして布団に入った。
テツはかなり疲れているのか、
「なんだこれ(笑)でも眠いから今日はこれで良いや。」
というとそのまま目を閉じた。いっぱい泣いて、眠くて、もう今どんな状況かあんまわかってないような感じだった。
テツの匂いがする。テツの体はかなり熱い。
おれもなんだか眠くなってそのまま寝てしまった。