ショータが事あるごとに話をへし折ったものの、拓斗のこの数か月の出来事の報告が無事に終了し、二本目のボトルがなくなろうとしていた。
俺もショータも拓斗に対しお祝いの言葉を改めてかけると、少しの沈黙が続いた。
自分の話ばかりで申し訳なくなったのか、拓斗が
「昇さんは最近どうなんですか。僕以上に色恋沙汰ないイメージですけど。笑」
「たしかに〜。先輩、恋愛のセカンドバージンですもんね。」
と酔ったショータも参戦してきた。
「お前ら、あからさまに馬鹿にしやがって。」
俺は、持っていたワイングラスを置くと、少し間を置き、グラスを見つめながら口をあけた。
「実は、この前、孝太さんに会ったんだ。」
二人とも飲みかけのワインを吹き出しそうになり
「え!?」
「どうゆうことですか!!??」
同時に同じ反応をしたにが、少し笑えた。
「2週間前、大阪に出張にいったとき、
訪問先の会社で働いていたみたいで、偶然会ったんだ。」
「どこの会社ですか!?俺が今から殴りにいきますから!!」
「おい、よせよ。」
と宥める拓斗。
「だって、あいつ最低野郎じゃん!昇さんのこと、あんなフリ方して。
どんだけ昇さんが辛い思いしたか。」
お酒のせいもあるのか完全に頭に血が登っているショータに拓斗が水をのませ、落ち着かすと
「それで、孝太さんは元気でしたか?」
「うん、昔と変わってなかったよ。
結婚してたけど。」
「え」
「子供も生まれたらしい。」
「、、、そうですか。」
三人ともグラスのなかの赤ワインを眺め、また沈黙が続く。
「ごめん、なんかしらけさせちゃったな。」
「いいえ、そんなことないです。」
「なんか、酔い冷めちゃったな。。。」
「よし!!二軒目いきましょう!!」
と、急に席を立つショータ。
「だから、お前少し静かにしてろって」
と、腕を引っ張る拓斗。
「いや、ショータの言うとおりだ!二軒目いこうぜ!!」
「そうこなくっちゃ、先輩!!テキーラぶっこみましょ!!」
「おう!!」
やれやれと拓斗がスタッフを呼びお会計をすますと、店をあとにした。
店を出ると、二丁目のクラブに行こうとショータが持ち掛けたが、今日は平日のど真ん中、客も少ないに決まっているのでその要望を却下し、近くのHUBに入った。
店に入ると、尿意を催した俺と拓斗は席の確保をショータに任せ、トイレに向かった。
隣同士で小便器に向かう。
「昇さん、正直、今、孝太さんのことどう思ってます。」
視線を前に向けたまま拓斗が話しかけてきた。
「正直、、、、分からない。
もう会わないほうが良いとは思っていても、この二週間何度も連絡しようとしたし。
でも、会って何したいかって言われたら、正直分からない。」
同時に用を足し終えると、チャックを閉め、洗面台でこれまた隣同士で手を洗う。
「僕は、昇さんのことが大好きだから、」
「え」
鏡越しで拓斗の顔を見る。
「い、いや、そう意味じゃなくて。」
と珍しく焦る拓斗。
俺から目をそらすと、必死に手を洗いながら
「僕もショータも昇さんのこと、尊敬してるし、信頼してる。
だから、昇さんのどんな行動しても僕らは賛成するし、応援する。
、、、だから、ぜひ自分の想ったように動いてください。」
顔を上げ、鏡越しに俺をしっかりと見つめる拓斗。
「ありがと、拓斗。」
と、俺は拓斗の頭を撫でた。
「ちょっと、濡れた手で触らないでくださいよ!」
「あ、わりー。」
と笑って、互いに何かを誤魔化した。
フロアに戻ると奥の方でショータが手招きした。
「遅いよ〜二人とも!」
「わりーわりー。って、おい、これ何?」
テーブルの上には6つのショットグラスが置いてあった。
「何って、テキーラとウォッカですよ。
どっちがいいかな〜って悩んだ挙句、どっちも買っときました。」
「お前、馬鹿なの。」
「はい。今気づきました?」
「開き直るな。
ま、久しぶりだし、時にはいっか。」
「そうこなくちゃ!!
かんぱ〜〜〜い!!」
俺らは高々と杯を交わした。
一軒目でもかなり飲んでいたこともあり、
結局、頼んだ当の本人が酔いつぶれてしまい、ものの1時間ほどで店を出ることになった。
「おい、ショータしっかりしろよ」
肩を貸し、何とか歩いているショータは目を瞑りながら、むにゃむにゃとしか言わない。
「昇さん、ショータ任せちゃってすみません。」
「いつものことだから大丈夫。」
「大通りでタクシー捕まえますね」
と、俺とショータの荷物をもった拓斗が向きをかえ小走りで走ろうとしたとき、
運悪く路地から出てきた人ぶつかってしまった。
思いのほか勢いがあり、また俺らの荷物を持っていたため、拓斗はバランスを崩しその場に尻もちをついてしまった。
「すみません!!大丈夫ですか」
拓斗を倒した相手は、すぐさま拓斗に手を差し伸べる。
「だ、大丈夫です。」
と、尻をさすりながら自力で立ちあがった。
「こちらこそ、すみませんでし、、、、、、、、、た、たいき?」
今まで見たこともない驚きの表情を見せた拓斗は、そのまま固まってしまった。
「拓斗!拓斗!?」
「たいき、、、、。」
「まさかこんなとこで会えるなんて。
会いたかったよ。」
と、たいきと呼ばれるスーツ姿の青年は拓斗の両手を伸ばした。
拓斗は拒絶するように一歩下がり、
「な、なんで日本にいるの。」
たいきと呼ばれる男性の腕がピタリと止まった。
「日本の企業で働くことになって、先月帰ってきたんだ。
、、、ごめん、ずっと連絡しようと思ってたんだけど、拓斗の連絡先が変わってて。」
「、、、3年。3年も連絡したなかったら、そりゃかわるよ」
下を向きながら、拓斗が小声で言う。
二人の間で沈黙が続く。
「拓斗、言い訳になるかもしれないけど、連絡しなかったのは理由があるんだよ。」
「き、きたくない。
俺は3年間ずっとあなたのことを想ってた。」
「、、、ごめん」
俺は一体何が起きているのか全然理解できず、
道の真ん中で繰り広げているこの状況をかえようと二人に声をかけようとしたとき、
それまで寝ていたショータがむくりと目をあげた。
「あれ、もう家?」
「んなわけ、ないだろ。」
小声でつぶやくと、ショータは目を擦りながら前を向く。
「あれ、拓斗何してるの、、、、あ!!!」
ショータは青年が視界に入った瞬間、
俺の肩をはじき、ズカズカとその青年に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。
「おまえ!!何しに来た!!」
「お、おいショータ!」
俺と拓斗は同時に、ショータの腕をつかみ取り押さえた。
「失礼だろ!お前、何してんだよ!!」
「離してください!!こいつだけは許せない!!
拓斗がずっとどんな思いしてたか!!」
「ショータ、お願いやめて!」
拓斗も半ば叫ぶように、ショータの腕を掴む。
俺らが静止させようとしても、聞く耳持たず、青年に殴りかかろうとしている。
ふと、周りを見渡すと明らかに通行人からの視線が俺らに刺さっている。
それは咄嗟の出来事だった。
「いいかげんにしろ!!!」
俺は、暴れるショータにおもいっきしビンタをした。
人生初のビンタだった。
ビンタされた頬に手をやり、驚いた顔で俺を見つめるショータ。
同じく目を潤まし、驚いた顔で俺を見つめる拓斗。
そして何よりもビンタした張本人の俺が、右手の震えを感じながら一番放心していた。
その時、新宿三丁目のほんの片隅で時間が止まった。
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