「そうなんですか!!すいません!!カードケース拾ってくれたんですか?!」
すると【その人】は、いたって冷静な声で
「そうそう。階段で見つけて、学生証の顔写真見たら大前君だったからさ。すぐに追いかけようと思ったんだけど、大前君 逃げるように去っちゃったからさ。電話したんだよ。繋がってよかった。」
俺は、その人から「大前君」と呼ばれたことに感激してしまった。学生証から名前を確認したんだろう。
(あ〜、学生証の写真 映り良くないのに!!あんな写真見られたとか最悪だ〜〜)
なんて、余裕な考えでいると、【その人】から
「で、このパスケースどうしよっか??アパート近いみたいだし、届けようか??」
と言われ、ハッと我に返った。
「いえいえ!!すいません!!自分が取りに行きます!!いえ、明日でもいいんですけど・・・って、それがないと家に入れないんだったんだ!!今から取りに行っても大丈夫ですか!!??あ、でも、まだ勉強されますよね。待ってますし、何時になりますか!!?」
俺は、本当にテンパっていた。自分でも、言った直後に後悔した。
普通だったら、こんなテンパって話したら、誰でも「隠れラブ」なのがバレバレである。
まあ、相手はノンケなんでそこまで考えていないであろう。
すると、その人は笑いながら
「大前君て、面白いやつだね(笑)俺は、構わないから。
そうそう、俺の名前は、『タキモト コータ』だから。院で待ってるから着いたら電話して。」
「タキモトさん、わかりました!!すぐに向かいます、すいません!!」
俺は、電話を切ってチャリで院に向かった。
チャリをこぎながら、電話を内容・・・というより、タキモトさんを思い出した。
タキモトさんの笑いは、俺の予想していた笑い方と違っていた。
俺の想像では、外見の知的なイメージからして、クスクスと上品に笑うのかと思っていたが、
割かし豪快に・・・なんというか庶民的なヤンチャな笑い方をしていた。
そして、最初は「僕」だった一人称が「俺」へとかわり、どこかアニキ的な感じもして、
勝手に、タキモトさんとの距離が近づいたような気持ちになっていた。
俺はチャリをブッ飛ばして、院につくと駐輪場からタキモトさんへと電話した。
「大前です!すいません。今つきました。」
「了解。ちょっと待ってて。」
と言われと電話が切れた。
すると、滝本さんは駐輪場まで走ってやってきたのだ。
「ハアハア。・めんごめん。待った!?久しぶりに走ったから息切れしちゃってさ。」
「いえ!。ていうか、走ってこなくっても大丈夫ですよ。こちらこそ、わざわざすいません!!!」
タキモトさんは、息を整えてから、俺にカードケースを渡してくれ
「大前くんてさ、『すいません』が口癖なんだね。」
と唐突に言われ、
「すいません!!俺 体育会系なもんで、すぐに謝る癖が・・。って、また言ってましたね。すいません!!あっ、また言っちまった!!」
タキモトさんは、そんな俺をさっきの電話した時に、聞かせた笑い方で
「ホント面白いやつだね!!あ、そうそう。学生証はポッケに入れておいたんだった。はい。
学生証の写真若いね。昔から男前だったんだね。」
「そ、そんなことないっすよ!!タキモトさんのほうが、イケメンすぎますっ!!」
この人は、淡々と何を言うのか。。。
でも、ここが駐輪場で本当に良かった。
もしも、この場面が明るい所であったら、赤面しているのがモロバレで終わってた。
と、その時
タキモトさんから視線を感じた。何か、こっちのリアクションを伺っているよな・・・。
ただ、俺はタキモトさんを直視したら赤面してるのがバレてしまうので、ずっと目を逸らしてしまう形になってしまった。
少しの沈黙が流れる。
俺は、きまづくなり
「タキモトさん、この後、また院に戻られるんですか?」
タキモトさんも、我に返ったように
「いや、もう帰ろうと思って。俺もチャリだし。大前君、金閣寺のほうでしょ?住所見ちゃってさ。ごめん!俺は、二条城のほうだから、途中まで一緒していい??」
「もちろん、いいっすよ!!」
俺は、うれしくなりその場に合わないボリュームの声で言った。
自分でも思うが、本当に分かりやすい男である。
俺は、タキモトさんと一緒に帰ることになった。
京都の熱帯夜は、いつも以上に俺の体を熱くさせた。