転入者の紹介タイムが終わり、各自が仕事に戻る。
「やっぱり、噂どおりのイケメンだったな〜。しかも高身長だし、なんか優しそうだし、
あんな人の下で働きたいな〜〜〜。」
流し目で俺を見ながら言う小東。
「、、、、。」
「大前さん?ちょっと聞いてます?」
「え?あ、ごめんごめん。」
「もう、まだ気持ち悪いんですか。」
「大丈夫、小東のポカリで復活してきたら。ただ、まだ少し残ってるけど。」
「この後、すぐに会議なんだからシャキッとしてくださいよ。」
会議に出席したものの全く頭に入らないまま、午前中が過ぎていった。
会議を終わりトイレに入り、鏡をみて驚愕した。
「顔色わっる。」
それが昨日の飲みすぎなのか、今朝の出来事なのかは定かではなかった。
偶然会った拓斗の元恋人と新宿のど真ん中であんな事になってしまい、さらに、その翌日にその元恋人「遠坂大輝」がうちの職場に仲間入りするなんて、誰が想像できるだろうか。
鏡を見ながら昨日から今日にかけての出来事を振り返っていると、より気持ち悪くなってきたので、バシャバシャと蛇口から出る水で勢いよく顔を洗った。
「よし!さっぱりした!!」
顔を洗い終えるを目を瞑ったまま、ケツポケットに手をやると
「あれ。、、、まさか。」
しまった、急いで家からでてきたので、ハンカチを持ってくるのを忘れてしまった。
さすがにスーツで拭くことはできないので、個室にいってトイレットペーパーで拭くことを決心し、瞼についた水滴を手で拭おうとしたときだった。
「これ、使ってください。」
と、隣から声が聞こえた。
だれもいないと思っていたトイレで急に声が聞こえ、ビクッとしながらも目を開けると、洗面台の隣に青いタオル地のハンカチが置いてあった。
「いや、悪いんで、大丈夫です」
と目を擦り、濡れた手をスーツで拭き、失礼ながらハンカチを持って隣にいるであろう人に渡そうとし、
目を疑った。
そこに立っていたのは、拓斗の元恋人であり、今日からうちの会社に転職してきた「遠坂大輝」であった。
「どうぞ、そのままじゃオフィス戻れないでしょうし。」
「す、、、すみません。じゃあ、遠慮なく。」
海外の柔軟剤だろうか、日本では嗅いだことのない匂いがする。
「ありがとございました。」
と、ハンカチを返そうとすると
「今日一日困るでしょうし、使ってください。」
「いや、でも、、、。」
今まで表情をひとつかえずに喋っていたのに、困ったように笑うと
「ロッカーにかえのハンカチあるんで、大丈夫です。」
「わかりました。ありがとうございます。」
沈黙が流れる。
昨日の謝罪をしてもいいものか、それとも触れないほうがいいのか、正直分からなかった。
すると、遠坂のほうから口火を切った。
「昨晩はすみませんでした。僕と拓斗のことなのに、巻き込んでしまって。」
「いや、謝るほうはこっちなんです。ショータが大変失礼なことをしまってすみません。
普段は友達想いでいいやつなんです、どうか許してやってください。」
営業のくせか、そういうと俺は頭を深く下げた。
「頭をあげてください。謝らないといけないのはこっちなんで。
むしろ、大前さんたちには感謝していますから。」
え、と顔を上げると、黒縁眼鏡を外した遠坂はまっすぐとした眼差しで続けた。
「拓斗にこんな良い先輩がいてよかったです。
さぞかし信頼していると思いますよ、大前さんのこと。もちろん、ショータさんのことも。
今は難しいかもしれませんが、僕も大前さんたちと仲良くなれたらうれしいです。
それじゃあ。」
そういうと颯爽とトイレから消えていった。
大人だ。
そう思った。
自分とたいして年がかわらないはずなのに、性格や態度、身だしなみ、そして端整な顔立ち、全てに大人の魅力があった。
これは拓斗も惚れるはずだ。
俺は、なんとも言えない感覚を味わいながら、自席に戻った。
「なんだかな〜」
とため息とともに独り言が出ていた。
「え、なんか言いました?」
パソコンから目を離さずに隣の小東が聞いてきた。
「いや、独り言。」
「めずらしい。
そういえば、先ほどA社からメールで提案書が届いていたので、確認おねがいします。」
「おっけ。」
受信ボックスを確認すると、確かにA社からメールがきていた。
しかし、その下には
『滝本孝太』
と差出人からメールが来ていた。
心臓が張り裂けそうなくらい緊張して、そのメールをクリックする。
「昇、この前はあまり話せずにごめんね。
元気そうで何よりだったよ。
来月、出張で横浜にいきます。
時間が合えば、ご飯でも。」
不幸は同じタイミングで重なるというが、これは不幸なのかなんなのか
この二日間で起きたことが衝撃的すぎて、俺の処理範囲を大幅に超えてしまい、ショート寸前であった。
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