それから俺たちは、先週通りの生活が続いた。
朝、図書館に行き、昼食を孝太さんと一緒に食べ
そこから勉強し、夕飯を食べる(時々、美咲さんにつれてかれてしまうが)。
そして、閉館後に駐輪場まで送ってもらう。
「孝太さん、悪いんで、送ってくれなくてもいいですよ(汗)」
「だって、少しでも昇といたいからさ。。。。」
そう言って孝太さんは、手を繋いでくれた。
毎日、校舎から駐輪場までのたった2分程度の時間であるが、俺はその時間が一番幸せだった。
しかし、変化した点もある。
それは、図書館で座る席だ。
今までは、遠慮して孝太さんから離れた席に座っていたのだが、孝太さんが「近くにいたほうが、お互い良い刺激になって勉強も捗るから。」と、隣に移動するように言われた。
さすがに、隣は周りからの視線があるからと、俺は孝太さんの真向かいの席に引っ越した。
俺らの前には、つい立があるから顔を上げてもお互いの顔を見ることはできないのだが、机の下は繋がっていて、足を延ばすと孝太さんの足に当たってしまう。
孝太さんは、時々これを利用して、足を延ばしてきて俺の足をスリスリしてくるので俺は勉強どころではなかった。孝太さんはというと、何食わぬ顔をして鉛筆を走らせていた。なんという器用な人だろう。。。
俺がそのことを孝太さんに言うと、
「いいじゃないか、減るものじゃないんだし。
それより、もうジーンズは履かないでほしいな。下から弄るのが大変だから。」
と、俺に毎日短パンで来るように命じる始末だった。
俺はそんな幸せな毎日を、噛みしめるように過ごしていた。
本当はお互いの家に泊まったりしたかったのだが、
俺のテストが終わるまで泊まるのは止めようということになったので、
俺は、毎日の孝太さんのスキンシップの一つ一つで、すぐ興奮してしまう体になっていた。
そんな日が一週間続き、試験最終日を迎えた。
キーンコーンカーンコーン・・・・
「っしゃー、試験終わった〜〜〜〜!!!」
「そんなに、荒々しく言わなくてもいいことだろ(笑)昇にしちゃあ、珍しいリアクションだな。なんかいいことでもあんの?」
貴志に指摘され、俺はあからさまに顔を赤くしながら
「い、いや。特にないけど。国賠の勉強かなりやってきたから、その反動かな。」
と、全くうまくないウソをついた。
「ふ〜〜〜ん。まあ、いいや。俺も山はった判例が出たから、これで卒業が見えてきたよ!」
と、真夏の太陽にも負けないニコニコした笑顔で貴志は答え、続けた。
「試験も終わったことだし、今夜、パ〜〜っと飲みにでも行こうぜ!!ぐるナビで、良い店見つけたし!」
「悪い!!今夜はパスで。用事がある。」
「え!?なんの用だよ??」
「用事は、用だよ・・・。」
「ふ〜〜ん。」
貴志が横目で俺をにらみつける。
「な、なんだよ。」
「女だろ!?」
「ち、、ちげーよ!!」
まあ、確かに意味的には違う、はず。。
「最近、浮いた話がないかと思って安心してたら、俺に隠れてヤッてたわけね。どーりで、最近新婚さんみたいな幸せオーラが出てたわけだ。」
「だから、違うって!お前と一緒にすんなよ!!」
完全にムキになっている時点でバレバレである。
貴志は、またニコッと笑いながら
「まあ、いいよ。また、今度話聞かせろよな!!」
と、俺に言ってきた。
俺は、「おうよ!」と答えたものの、心のなかで
(貴志には一生相談できないんだろうな。こんなに仲のいい奴でも、一生、嘘ついていかなきゃいけないのか・・・。)
と、貴志の笑顔の反面、複雑な気持ちになって、俺らは大学で別れた。
午後7時
俺はシャワーから上がると、少し派手目のパンツを履き、着替えをし、
もしもの時用にと、コンドームをポケットに入れて、家を出た。
今夜は、試験が終わったということで、孝太さんちに泊まる約束をしていた。
孝太さんも今日は早めに切り上げてくれて、夕飯に一緒にカレーを作る予定になっていた。
俺は、実家から届いた地酒をチャリの籠に乗せ、走らせた。
孝太さんの家は、桜の名所でもある二条城の近くであり、この時間となると二条城の周りをランニングしている人達が何組もいた。
その人らを避けつつ、路地裏に入り、孝太さんのアパートへとやってきた。
孝太さんの部屋の明かりがついていることを確認すると、
俺は今夜のことを考えながら気色悪い笑みをして、エレベーターに乗り込んだ。
角部屋である305号室につき、インターホンを鳴らそうとしたが、その手を止め、
以前、孝太さんが「俺って家の鍵いっつもしめないんだよ〜」という話を思い出し、ドアノブに手をかけた。
ガチャ
やっぱり、今日も空いていた。
俺は、孝太さんを驚かせようとそうっとドアを開けた。
ドアを閉め、玄関に靴を脱ごうとすると、
そこには、見知らぬ靴が置いてあった。
ピンクのヒール。
明らかに女性の物である。
恐る恐る廊下を歩き、部屋のドアに手をかけた。
俺のなかで、嫌な連想がよぎった。しかし、(孝太さんなら、大丈夫!)と、彼を信じて勢いよくドアを開けた。
しかし、その光景は信じがたいものであった。
ガタン!!
俺は、あんなにも大事に持ってきた地酒を床に落とした。
「の、昇!??」
孝太さんは、ビックリした目で俺に言い放った。
俺は、何も言い返すことができない。
俺がドアを開けた時に飛び込んできたには、孝太さんと美咲さん。
そして、その二人は、両手をがっちりと握った状態で、今にもキスをしそうな顔の距離で見つめ合っていた。
「昇、これは・・・!」
唖然としていた俺に、孝太さんが何か言おうとし、俺はそれで我に返った。
「す、すいません!!お邪魔みたいで・・・・。帰ります!!」
俺は、その場から立ち去ろうと玄関に走った。
しかし、孝太さんに
「昇!!待てよ!!!」
と呼び止められ、立ち止まってしまった。
孝太さんが俺の方へと、向かおうとした。
ところが、その腕を美咲さんが止めた。
「孝太!!どこ行くの!?」
俺は、訴えかける美咲さんの方を見てから、孝太さんの方をみる。
ほんの一瞬、お互いの目が合う。
孝太さんは何か言おうとしたが、俺は玄関から飛び出し、駐輪場まで駆け降りると自転車を勢いよく走らせた。
俺は、涙をこらえながら、自転車を必死にこぎ続けた。