「おはようございます、大前さん。聞いてくださいよ、昨日の合コンの話!」
相当昨日の合コンがうまくいったのか、朝から上機嫌の小東が俺のデスクに報告しに来た。
「小東、お願いだから大声で喋らないで。頭に響く。」
「どうしたんですか、二日酔いでも、、、って、大前さん、めっちゃ顔色悪いですよ。」
「今、お辞儀したら吐く自信あるわ。」
「どんだけ飲んだんですか、全く。」
昨晩、俺がショータをビンタした後のこと。
ショータが正気に戻り、自ら立ち上がると青年に向かい
「すみませんでした」と一言だけいって頭を下げた。
そして、俺らに
「昇さん、拓斗、帰りましょ」と言い、フラフラと大通りに向かって早足で立ち去った。
ふと我に返り、
「おい、ショータ!」
と俺と拓斗は同時にショータを小走りで追った。
走り出した途端、俺は
「拓斗、ショータは俺から面倒みるから、お前は戻って、あの人の、、、」
そこまで言って、初めて拓斗が泣いていることに気づいた。
「拓斗、、、、。お前、、。」
「止まらないで、昇さん。お願い。
立ち止まったら振り向いちゃいそうだから、、、お願い。」
涙を必死に拭きながら前を見て走る拓斗に、
俺は「分かった」とだけ言って、二人でショータを追った。
そのあと、三人で同じタクシーに乗ったが、一言も喋らず各々解散した。
今朝になり、グループラインが数回鳴ったが、開く気になれず、そのままにして出社した。
と、頬に冷たい刺激がした。
「つめてっ!!」
そこには、冷えたポカリを俺の頬に押し付けている小東が立っていた。
「高いですよ。」
「お前、わざわざ買いに行ってくれたの?」
「当り前じゃないですか。そんな状態で仕事されたら、後輩の私が困りますから。」
「さんきゅー」
ポカリを受け取ると、その場で半分ほど一気に飲んだ。
冷たいポカリが体中に落ちていくのがわかる。
「ふーーー、生き返った。」
「へんなところ、おやじ臭いんだから。」
「悪かったな。でも、助かったよ、ありがと。」
そうお礼を言った直後、
「おーーい、皆。ちょっと前に集まってくれ!!」
と部長の声が聞こえた。
俺は椅子から立ち上がり、オフィスの前方に小東とともに近寄った。
「なんかあんの、今日。」
「え、知らないんですか。隣の国際戦略課に新しい人が来るんですよ。
その紹介タイムだと思います。」
「この時期に来るって珍しいな。てか、よく知ってるな、小東。」
「同期の吉田に聞きました。かなり優秀な方で、ヘッドハンティングだって話ですよ。
しかも、イケメンて聞いてるから、楽しみです。」
背伸びしながら、前の方をみつめる小東。
「小東って、ホントにイケメンに弱いよな〜」
「あら、やきもちですか。」
「じゃねーよ。」
「なんだ。でも、確か大前さんと年が近いはずですよ。」
「へー」と興味がないように返したが、興味ありありである。
しかも、イケメンと聞いたら、なおさら。
俺は「小東のために」と強調して一番前に場所を陣取った。
「えー、本日付けで我が部の国際戦略課に新たな仲間が着任したので、皆さんに紹介します。それでは、こちらへどうぞ。」
部長がすぐ隣の部長室に向かって声をかけ、皆の注目が集まる中、そこから一人の男が現れた。
「やだ、イケメン」と小声で呟く小東に、まったくと思いながら俺も期待を込めてドアから出てきた男性の顔を見た。
そして、俺は目を疑った。
紺色のスーツに身をまとった青年はスタスタと歩き、俺の目の前に立ち止まった。
この時、俺は下心で一番前に来た自分を心の中で思いっきり責めた。
青年は全員に一度お辞儀すると、
「今日からこちらでお世話になります、遠坂大輝と申します。
以前は海外の商社で働いていて、久しぶりに日本に戻ってきました。
皆さんの役にたてるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。」
と言って、もう一度深々とお辞儀をした。
顔をあげると、驚いて硬直している俺と完全に目があった。
俺は、表情一つ変えずにこちらを見ている彼から視線を外せなかった。
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