『モルサ』を出て、高島屋を横切り新宿駅に向かう。
金曜日ということもあり、0時前だが人で溢れかえっている。
人をかきわけ悠吏と共に小田急線各駅停車に乗り込む。
「拓斗、よかったね、なんとか座れたよ。」
「うん、ラッキーだったな、、、」
席に座ると、沈黙が続く。
「たいき」が日本に帰ってきた。
なぜ、連絡をくれないのか。
なぜだ。
あの時、好きだと言ってくれたのに、俺をおいて海外にいってしまった彼。
彼が海外に行った時点で全てが終わっていたのはわかっていたけれど、心のなかであのころの記憶が鮮明に蘇ってくる。
すると、拓斗が俺を覗き込みながら話しかけてきた。
「今日の料理ほんと美味しかったね!」
「うん、そうだったね」
「あの蔦だらけの外見にはびっくりしちゃたけど。」
「そうだね、変わってたもんな。」
「、、、、拓斗。なんか、俺へんなことした?」
「え?」
「だって、さっきから単調な返事しかしてないし、ぼーっとしてる感じ。
俺、気に障るようなことした?」
「え、そんなことないよ!少し酔ってしまっただけ。悠吏は何もしてないよ!むしろ、すごく楽しかったよ!」
「そっか」と少し寂しそうな顔をして、また前を向いてしまった。
最悪だ。
せっかく念願かない悠吏と二人きりで食事に行けたのに、昔好きだった人に気がいってしまったせいで、彼の印象を悪くしてしまった。
親友であるショータからは、「悠吏がこっちであるかどうか」を今日見極めないと絶対ダメと言われていたが、結局それすらも分からず、間もなく経堂駅に着こうとしている。
経堂駅につくと、既に0時を回っていた。
改札を出て『すずらん通り』に向かって歩く。
さすがに、すずらん通りはラーメン屋以外店じまいしており、人もほとんど歩いていない。
あともう少し歩くと、カフェ『けやき』がある十字路にたどり着く。
俺は左に、悠吏は右に曲がる。
そう、そこが別れの分岐点である。
家に誘いたいが、さっきのやり取りから会話があまり弾まず、誘うタイミングをことごとく逃していた。
こんな状態じゃ断られるに決まっていると、いつもの悪い癖でネガティブな考えが頭から消えなくなっていた。
リミットである分岐点に差し掛かろうとしたとき、悠吏が「ちょっとコンビニに寄りたい」と言ってきた。
「了解、外で待ってる」
コンビニの外で空を見上げる。
悠吏とさっきサザンテラスで見た満月が商店街の街灯以上に輝きを放っていた。
これが最後のチャンスかもしれない。
俺は意を決しコンビニに入り、買い物かごをぶら下げている悠吏のところに行き、彼の腕をつかんだ。
「悠吏、あのさ。このあとなんだけど、、、、うちで」
「いいとこにきた!このあと飲むお酒どうする?拓斗んちって何があるの、お酒。」
「、え、、この後って、、、、」
「うん、この後。何飲むって話でしょ?」
「あれ、、、俺そんなこと言ったっけ、、」
「何言ってんの、電車のなかで言ったじゃん、俺。拓斗んちで飲みなおそうよ!って。
そしたら、拓斗『うん』て。酔ってるとか言ってやっぱり俺の話、全然聞いてなかったな!」
身長が180もある青年が、拗ねた子供のように頬っぺたを膨らます。
その表情で、さっきまでネガティブに考えていた自分が馬鹿らしくなり、笑ってしまった。
「ごめんごめん、聞いてたよ!うちにはビールと簡単なつまみしかないから。悠吏の好きなものを選んでいいよ。」
「じゃあ、朝までコースのお供を探します、隊長!!」
「まじかよ、オールのつもりか、、、。」
またも悠吏に救われた。悠吏は俺の気も知らず、あれこれとつまみを吟味している。
コンビニでの買い物を終え、家に着くと時計は午前1時をさしていた。
前回来たことがあるため、悠吏はずかずかとリビングに向かい、リビングのテーブルにコンビニ袋を置くと、ソファーにドサッと腰掛けた。
「いや〜、この家、やっぱり落ち着くわ〜」
「何様だよ、お前。」
二人で買ったハーゲンダッツを冷凍庫に入れると、グラスを持ってリビングに向かった。
「じゃ、乾杯!」
「かんぱーい」
「拓斗んちって、トランプある?」
「あるよ!やる?」
「うん、負けたほうがこれを一気するって、どう?」
きゅぽんとコルクを外すと、ワイングラスに並々と赤ワインを注いだ。
「大学生じゃないんだから。」
「俺、大学『院』生だもん!ね、せっかくだしやろうよ。明日休みなんだしさ!」
「うーーん、、、よし、分かった!」
「そうこなくっちゃ」
ババ抜き、インディアンポーカー、大富豪、、、ワインが空になるまで1時間もかからなかった。
4勝1敗、ボトルのほとんどが悠吏の体内に吸収されていった。
悠吏の目はトロンとしており、10秒でも沈黙があれば寝てしまいそうだ。
これでは、確信、、、「悠吏がこっちなのか」確認するのはほぼ不可能。
悠吏がふらふらとトイレに立ったのを確認すると、スマホ取り出し「今夜、確認するのは無理そう」とショータにラインした。
気にかけていてくれたのか、すぐに「飲みに行けたんだから、次の機会あるし、焦らず!」と、ショータにしては冷静な返信がきたので、「うん、ありがとう。おやすみ」とだけ返して、残ってるワインを飲み干した。
そうこうしているうちに悠吏がトイレからおぼつかない足取りで戻ってきた。
右目をこすりながら、まるで少年のように
「拓斗、、、眠たい。」
「あんだけ飲めばそうなるよ。仕方ないな、寝室で待ってて。Tシャツとスウェット持っていくから。」
「ありがと」
そういうと、方向をかえ寝室へと向かっていった。
適当に着替えをもってすぐに追うと、寝室で立ったままベッドの前で寝ていて、その可愛らしい姿だけで酔いが冷めてしまった。
「ほら、着替え。」
手渡すと、目をつぶったまま一回は掴むもののすぐに下に落としてしまう。
数回そのやり取りをしていると、
「眠くて着替えられない。脱がして。」
と大柄な体が抱き着いてきた。
「ちょっと、おい!!」
突き放してもビクともせず、目を瞑ったまま両手を挙げた。
「脱がして〜、お願い〜〜」
「子供かよ、まったく、、、。仕方ないな〜、、、」
仕方なくシャツを脱がせ用意していたTシャツを着させた。
「はい。下は、自分で着替えろよ。」
「無理。」
「やだよ、俺ズボン脱がすの」
違う意味でもホントに勘弁してほしい。しかし、悠吏はしきりに「無理」と聞かないため、こちらも仕方なく脱がすことにした。
ベルトに手をかけると、なぜか緊張してしまう。
震えた手でベルトを外し、思いっきり下までズボンを下す。
なるべく股間を見ないようにしゃがむが、ちょうど頭のあたりに股間があるらしく、その熱気がじわじわと伝わってくる。
酔ってるせいか、、、顔をあげてしまうと、何か、、、自制が効かず、戻れなくなってしまう気がしたので、必死に足元だけを見つめるようにした。
「、、、右足あげて。」
何も言わず、右足がのそりと上がる。そのすきに右足からズボンを脱がし
「じゃあ、左足。」
こちらも何も言わずにのそりとあがり、やっとのことでズボンを脱がすことができた。
そこで替えのズボンを取ろうと立ち上がったとき、
急に悠吏に肩をガツっと掴まれ、そのまま二人で向き合う形でベッドに倒れこんだ。
「いって〜、なにすん」
「好き。」
「え、」
顔を見ると、目をしっかりと開けた悠吏がいる。
「好きだよ、拓斗。」
俺は頭が真っ白になり、ただただ彼の綺麗な瞳に見入っていた。