「その子、絶対にこっちの子だよ!!」
「うーーん、そうかなぁ、、、。」
「どう考えたってそうでしょ!ノンケがそんな態度しないって!!」
新宿三丁目にあるスペインバルで、親友のショータは場に合わない声で興奮気味に俺に言ってきた。
「お待たせしました、燻製肉の盛り合わせです。岩塩つけてお召し上がりください。」
大学生だろうか、まだウェイターに慣れていない感じが初々しくてかわいく感じる。
「ありがとうございます」
まるで、そのウェイターの手でも取ってしまうんじゃないかってくらい、まじまじと見つめてお皿を受け取るショータを見て笑ってしまった。
ウェイターが席から離れると
「ショータ、今の人、タイプでしょ?」
「え!なんでわかった!!」
「分かりやすすぎだよ」
笑いながら、岩塩をつけすぎた肉を赤ワインで流し込んだ。
金曜日ということもあり、他のテーブルを見ると、明らかにカップルもいれば、職場のメンバーで来ている客、俺らのように同性同士の客もいて混みあっている。
ここ東京では、
金曜日の夜に男二人が丸テーブルに向かい合って、肉をつついてても何も違和感がない。
いろんな人間がいて溶け込んでしまい、そして、皆、自分のことしか見ていないからだ。
「そんなことより、そのけやき君のこと!」
「変なあだ名つけんなよ。」
「だって、男の名前なんて『タグ付け』しないと、すぐに忘れちゃうもん。たくさんいすぎて、、、。
だから、けやき君!!」
一瞬、くぐもった表情をしたショータの顔を見逃さなかった。
ゲイ特有の悩みなのかもしれない。
ショータは、すごく単純そうな人間であるが、非常に繊細な感覚を持っている。
自分自身も、普段は社交的な自分を演じている。もちろん、昔のように「ゲイであること」に悩みもしていない。
しかし、ふと、今後の人生を考えると、とてつもなく怖くなるときがある。
それは、友人の結婚式に出席したときや、実家帰省した際に感じる親の老い、様々なところで感じる。
明らかに、学生のころよりも、そう感じる機会が増えている。
俺やショータだけではなく、
彼氏がいて幸せそうな奴、休みの度にツイッターで毎回キラキラした投稿をしている奴、こんな悩みを相談したら一喝してくれそうなゲイバーで働いているママだって、、、同じような悩みを持っているんじゃないだろうか。。。
「ちょっと、拓斗。俺の話聞いてる?」
ワイングラスを持ったまま、ボーっと外の景色を眺めていた俺の目の前に、ショータの視界が入ってくる。
「あー、ごめんごめん。なんだっけ」
「なんだっけじゃないよ。だから、そのけやき君。ホントにノンケなの?」
「うーん、、、多分。」
「アプリで調べてみた?」
「うん、一応。でも、大学の近くも、彼の家の近くも出てこなかった。」
「そっかぁ。。。もう少し、様子見てみなよ。」
「そのつもりだけど、、、、」
「つもりだけど、なに。」
「もしノンケだったら、俺虚しいだけじゃん。」
「拓斗、、、、」
ショータは、肉を刺したフォークを一度、皿の上に置いた。
「なあ、拓斗。それを恐れていたら、いつまでたっても恋愛できないよ。
拓斗って、いつもそうじゃん。
相手がゲイだったとしても『でも、あの人は俺には興味ないと思う』って、そんなんじゃいつまでたっても恋できないよ。
拓斗が少しでも気になったのなら、頑張ってみたら良いじゃん。
少なくとも俺は、そのけやき君も拓斗に興味があると思うけどな。」
そういうと、ムシャムシャと勢いよく野菜を食べ始めた。
本当に俺は、良い友達を持ったと思う。
「そうだな。少し頑張ってみるよ」
俺も、食べかけの肉を口に運んだ。
「そうこなくちゃ!てか、この後、どうする?
せっかくだし、クラブ行かない?」
「君は、本当に忙しい奴だね。
でも、ワインでほろ酔い気分だから、久しぶりに行きますか!」
「そうこなくっちゃ!すみません、お会計お願いします!!」
遠くの方で
「は〜い」と、さっきのウェイターが爽やかに答えるのを、目をキラキラさせて見つめている拓斗の表情に、また笑ってしまった。
ふと、外を見ると、今にもスキップしそうなサラリーマン・OL達がネオンの中を行きかっていた。
「今夜も長くなりそうだな」