「なぁなぁ、いつか決めたか?」
退屈な授業の最中にそう話しかけたのは学科とサークルが同じ成澤だった。俺は成(なり)と呼んでいた。
「いつって何が?」
「ディズニーにみんなで行こうって話があったろ、それお前さん
が幹事じゃなかったか?」
すっかりと忘れていた。やっぱり俺じゃない誰かが進めたほうがいいんじゃないだろうか。
何より、俺自身が乗り気じゃない。
澄乃とあのやりとりをしてから二週間、まともに連絡を取っていないことにも気付いた。
澄乃に、会いたくない。
いや、正確には会いたくない訳ではない。会って温度差を感じるのが嫌なのだ。思ってくれている分だけ、思い返してあげられないことに直面したくないのだ。
成とは大学からの付き合いだが、誠実な人柄で同い年だが尊敬に値するくらい信頼していた。だから、澄乃との距離感を相談してみようと思った。
「成、ちょいと相談なんだが。」
「ほう、なんだね。」
「実は澄乃とうまくいってないっぽいんだ。」
「ディズニーの話からそう来ましたか。澄乃ちゃんとうまくいってない理由は?」
なんとも答え難かった、何があった訳でもない。何が悪い訳でもない。だけど漠然と好きになりきれないという思いがある。
「俺…かな。」
「ふむ、お前さんの何が原因なんだ?」
「うまく言えないんだけど、好きじゃないのかもしれない。」
「ありゃ、いつからそう思った?」
「付き合った当初は告白されたことが、自分のことが好きなんだとわかっただけで嬉しかったんだけど、最近かな、ちょうど春休みが終わったあたりから、澄乃への思いが本当なのかわからなくなった。」
「うーん、学校が始まって澄乃ちゃんに構ってる余裕が無くなった?」
「俺さ、最近バイト始めて、忙しくなってることに安心してる。これじゃあ澄乃に会えなくてもしかたないよなって。連絡も、ほとんどとってない。」
その時終鈴がなった。
先生や生徒たちは皆片付けをしている。
「あー、(小声で)やっぱこの授業つまんねーな笑 耕一、この後授業は?たしか無かったよな?」
「あ、うん。無いよ。」
「じゃあ肴屋(さかなや)行こうや、そこで話を聞こう。」
肴屋は大学の最寄駅である渋谷駅からすぐ近きにある居酒屋で、安い上に旨く、そして早くやっているところで、よくうちの学生がお世話になっている。
「マジか、流石成、付き合いがいいねぇ。」
俺たちは鞄を持ち肴屋へ向かった。