「それじゃ、耕一と清水さんと岡部さんにいらっしゃいの…」
『かんぱーい!!』
なんだかんだ幹事は裕司がすることになったらしい。仕切り屋みたいで、テキパキと働いている。
さて、俺はというと…
「すみません、緑茶ハイおかわり。」
ものっそいハイペースな秋山さんの隣に座っている。今なら色々聞けるかも。んー、でもどのタイミングで聞けばいいのやら。
「そういえば一平、耕一がこの機会に色々聞きたいんだって。」
裕司、ぶっこんできたな。まぁ着火しないと埒があかないよな。
「なんですか?なんでも聞いてください。」
またニコニコしだした秋山さんを見るとたじろいでしまう。どうしようか。
「あの…まずおいくつですか…?」
ぶふぉ!と裕司が吹き出した。
つられて他の人たちまで。
「20歳ですよ。」
え?
また裕司が吹き出した。
え?なんかの冗談?これはつっこんだ方がいいのか?でも本当だったらどうしよう。
「年齢ですよね?ハタチですよ。」
また言った!言い直した!
その時裕司を含めた何人かが声を出して笑った。
「耕一…聞きたいことって…そっからかぁ。一平は本当にハタチだよ。俺たちと同い年だ。」
笑いながら言う裕司をまだ信用していなかった。
「やっぱりそこ疑問に思うよね。私も一平もっと年上だと思っていたもん。」
同じく笑いながら西尾さんがそう言った。
「え?本当に?同い年?秋山さん同い年なんですか!?」
「本当ですよ。よく二十代後半とかに見られますが、まだハタチです。あっ、緑茶ハイ頼みたい、店員さん呼んで。」
そう言うと煙草を吸い始めた。
なるほど、だから裕司は呼び捨てであんな態度だったのか。納得した。
と、同時に疑念を抱いた。もしかして…
「秋山さん、出身は何処ですか?」
「東京です。」
なーんだ、全然思い違いだった、あの秋山一平とは違う人だった。俺の思い過ごしか。ってかそんな偶然ある訳ないか。
「ぶー、ダウト!一平、お前東京出身じゃないだろ!」
そう言ったのは、初日にシャツを貸してくれた(勝手に借りた)堀口さんだった。
「りょーちん、余計な事言うな…」
そう言って秋山さん、いいや、秋山は堀口さんを睨んだ。
「確か一平って北海道出身じゃなかったっけ?」
そう言ったのは西尾さんだった。
なぬ、北海道!?
「北海道のどこですか!?」
「・・・北見市です。」
秋山は嫌そうに答えた。
北見市!!それじゃあ。
「秋山一平!!北見市立小山中学校!」
興奮して名詞しか出てこなかった。
確かめたかったんだ。目の前にいる秋山一平は、俺の知ってる秋山一平かどうか。
「・・・ふぅ。そうだよ。」
やっぱり!
「何々、どういう事?」
周りがよくわかってなかった。
「同じ中学校だったんです!こいつと俺!出席番号1番と2番!」
秋山さんからこいつになってしまっていた。
そんなことはどうでもいい。こいつは初めましての時に俺なんか知らないと言った。それは嘘だったのか?
「うぉーい!秋山!ってか一平!どういうことだ!?最初、俺のことなんて知らないって言っていただろ!なんでそんな嘘ついたんだ!」
もう興奮状態だった。そんなこと余所目に、緑茶ハイを飲んで煙草を吸ってる奴は開き直ったかのように言った。
「知らないなんて言ってない。俺が言ったのは『秋山耕一という友人は俺にはいない』と言ったんだ。何も嘘なんてついていない。」
「一平…相変わらず性格が曲がってる…」
西尾さんがそう呟いた。
確かに一平とは接点が全然無かった。友人とは言い難いのかもしれない。それでもそんなひた隠しにしなくてもいいじゃないか。
「なんだよぉ。言ってくれればいいべや。いつ東京に出たんだよ。高校卒業してか?」
「あぁ、そうだ。」
ぶっきらぼうに一平は答えた。
「お前だけ制服が違うのなしてよ?」
「俺はトレーナーだから制服が違う。ついでに時給も違う。」
なるほど、トレーナーとはバイトの上の方ということかな。
「時給なんぼよ?」
「1350円。」
「げっ、200円も違うのかよ。はぁ、でもわかってよかった。俺お前に萎縮してたぞ。いっつもニコニコしちゃって、無茶振りするし。」
「あぁあぁ、悪かったよ。でも別に俺は嘘はついていないし、仕事での教え方はあぁなるんだよ。実際出来ただろ。」
「さっき東京出身だって言ったくせに…」
「あれは勢いだ。」
「まぁまぁ。その辺にしておいて。今日は歓迎会なんだから、一平は耕一を歓迎しなさい。」
そう言って裕司が仲裁に入った。
「わかったよ。これからよろしく、耕一。」
「おう、よろしく。」
この時は、辻褄(つじつま)があったり、合点があったりで、納得してなんだか安心していたんだけど、一平の方は違ったみたいだ。
本当に、出来ることなら知られたくなかったんだと思う。
例えばそれが、どんなに無理な話であろうと。
例えばそれが、どんなに都合の良い話であろうと。