「おい、もう帰んのかよ」
野球のユニフォームを脱ぐ
制服に着替える僕
「うん」
「今日ヤろうぜって約束」
「してない」
「昼休みに」
「してない」
グイッと後ろから腕を捕まれる
「しゃぶれよ」
二人きりの更衣室
夕陽がさす窓辺
傷だらけのベンチ
汚れた雑誌
「もう、そういうの卒業した」
「…」
「来年から高校生だし」
「…」
「男子校だけど共学受けるよ」
目線は合わさない
冷たくあしらう
「気取りやがって」
「そんなんじゃない」
「気持ちよけりゃいいじゃん」
「そんなんじゃない!」
腕をほどく
冷たい空気
暑い室温
冷たい汗
熱い視線
「勝手にしろよ」
「勝手にする」
「帰れ」
「帰る」
振り向き様に叫ぶ
「ホモとか気持ち悪いんだよ!!」
更衣室を飛び出す
(ホモとか気持ち悪いんだよー)
自分が言われて傷つく言葉
男を好きになっちゃ
いけないんだって
先生も親も
そう教えるけど
じゃあどうやってこの
好きって気持ちを
おしころせばいいの
たまたまクラスが一緒で
席が隣で
宿題教えあったり
同じ休みに昼飯食ったり
笑ったり
ふざけあったり
そうして
その人の
優しさとか
誠実さに触れて
美しさに魅せられて
尊さに惹かれてあって
人は人を好きになるんじゃないの
その権利が
異性間にしかないというのなら
どうかそうっとしておいて欲しい
その小さな思い出も
嬉しかった感情も
ささいなしあわせも
先生や親が思っている以上に
誰よりもまじめに考えているし
何よりも大事にしている
その人が大事にしている
尊厳とか
そういうものを
気持ち悪いの一言で
片付けないで欲しい
「くやしいよ…」
真っ赤に染まる空
鼓膜が破けるほどの
蝉の声
泣きながら歩く僕の影は
まっすぐと後ろに
彼のほうへと
伸びていた