【黒】
俺は携帯を無理矢理奪い返すと
その場から走り去った
黒く重たい雲が渦を巻き
轟音と共に雨が降りだす
ポツポツと
次第に水溜まりを作り出す
赤いスニーカーは
まるで俺の心を映しだすかのように
次々と水溜まりを蹴飛ばしていく
ばかだ俺
いつのまにか
少しでもこんな俺でも
もしかしたら
なんて淡い期待を抱いていた
あるわけないのに
俺は気持ち悪いだけなのに
あんなキレイなやつを
好きになってはいけないのに
雨がどんどん強くなり
俺の走る速さも増していく
中道を抜け
住宅街を抜け
ガソリンスタンドを曲がり
もうここはどこだかわからない
近くに見えた小さな公園
気づけばそこの真ん中に立っていた
もう白いシャツはぐしょぐしょだ
赤いスニーカーも黒くなっている
前髪から水が滴り
土の上へと落ちていく
後ろから足音がする
「なんで逃げんの」
ゆっくりと振り向くと
そこには肩で息をする
あいつが立っていた
「なんで追いかけてくんの」
「…」
「携帯見て申し訳なくなったか」
「なに拗ねてんだよ」
俺は頭に血がのぼった
「うるせえよ!俺は!」
「…」
「俺は…」
喜びや悲しみがまだ
少しでもおまえに繋がっているなら
「俺は…男が好きで…だけど」
祈りを込めて言いたい
この強がりな性格が
邪魔しても
「そんなん関係なくて…」
俺は伝えたい
俺は
「俺は…おまえが好きだ」