「小さいです、これ。」
「・・・うん、小さいね。」
LLのシャツをきつそうに着る俺はとんだ笑いものだった。
とんだ体格アピールだ。
高尾さんも目が笑っている。
「どうしようか、XLは今度発注するとして、今日だよな今日。せっかくのデビュー戦がこんなユニフォームじゅあ格好つかないな。・・・一平ぇ!ちょっといいかー!」
「はい、XLありますよ。堀口あたりの。」
高尾さんの大きな声に呼ばれたもう一人の秋山は会話を聞いていたようだ。
相変わらずニコニコしているが若干本当に笑っているようだった。
「高尾さん、私は無理だって言ったじゃないですか。秋山さん身体大きいんですから。」
「うん、じゃあよろしく。」
高尾さんも秋山の真似してニコニコして言ってみせた。なんとも乱暴な笑顔だ。
「はい、わかりました。秋山さん、ちょっと更衣室行きますよ。XLに着替えましょう。」
俺は秋山さんの後ろを付いて行った。
ところでだ。この秋山さん。高尾さんから「このビルのリーダー」と紹介されていたので一瞬バイトなのかと思いきや、俺の渡された制服と違う。
俺のは白いワイシャツに大きな前掛け(サロン)。しかし秋山さんは高尾さんと同じ、それに加えてネクタイとベストを着ている。
ということは社員なのか?だとしたらこのビルのリーダーってのはあくまで高尾さんを抜いての話なのか?
ってかいくつなんだ?
謎、秋山一平さん・・・
「お、あった。はい、これXLです。着てください。」
堀口と名前の書かれたロッカーから取り出した白いシャツを手渡された。
いいもんなのかどうか。
「あぁ、ありがとうございます。・・・堀口さんも。」
そこにいやしない堀口さんにお礼も言って着替えることにした。
「これならたぶん大丈夫でしょう。第一ボタンははずしてもいいですよ。先行って待ってますんで。」
「はい、ありがとうございました。」
「あっ、それと。私が秋山さんの教育係になったんでよろしくおねがします。秋山さん。」
またいつものニコニコした顔を見せた。この人の考えてることがよくわからない。
まぁ、それもいずれわかる・・・かな?
「こちらこそよろしくお願いします・・・秋山さん(笑)」
思わず笑ってしまった。同じ苗字で呼び合うなんてなんだか可笑しい。
「はは、なんだか変ですね。じゃあ先行ってます。」
そういうと秋山さんは去ってしまった。
(そこは「下の名前でいいですよ。」じゃないんだ・・・)
少し残念に思いながらもシャツを着替えた。
その間、他のバイトの人たちも出勤してきていろんな人と挨拶をした。
「今日からの秋山です。よろしくお願いします。」
を何度も言った。
その中の一人に祐司がいた。
「おー、おはよう。バイトにお前いるの新鮮だわ。緊張してっか?」
「おはよう。緊張はそんなにしてない。なぁ、秋山さんってどんな人だ?」
俺の質問に祐司はわけのわからないという顔をした。
「いやさ、秋山さんが俺の教育係になったらしいんだけど、どんな人だろうと思って。」
「あー、一平か!なんだよ、秋山さんとかお前のことかと思って、何言ってんだこいつと思ったわ!」
呼び捨て・・・祐司はいつからこんな礼儀知らずになったんだ。
だがそこまでつっこむ必要もないか・・・
「一平はなぁ・・・うん、まぁ・・・おもし・・・ろいぞ?」
「なんで疑問文・・・」
「あー、いいやつだぞ。うん。」
なんともしっくりこない答えに肩を落としてしまった。
面白い?そうは見えなかったけどなぁ。なんというか真面目そうで。
いい人っちゃあいい人そうだが、笑顔で壁作ってるような・・・
「うん、わかった。直接知ることにするわ。」
「おう、まぁわかるさ、そのうち。」
意味深なことを言われながらホールに戻ることにした。
これから始まる初めての職場のことよりも、もう一人の秋山のことで頭がいっぱいだった。