店の中は多くの客で賑わっていた。
大半は近くの大学生のようだ。
ちなみに僕の通っている大学ではない。
忙しいためなのか店員は僕らの入店に気付かない。
しょうがないので空いているテーブルを見つけ座った。
「人多いな。うるせー。」
怪訝そうな顔で酒井が呟いた。
「ほんとだね。俺人込み苦手だから何か落ち着かないな。」
「とりあえず早めに飯頼もうぜ。どうせ時間かかるだろうし。」
「そうだね。」
バイトで疲れて腹減ってるはずなのに、
何故か食欲がわかなかったので軽い物を頼んだ。
僕とは対照的に酒井はがっつりと注文した。
内容を思い浮かべるだけで腹いっぱいになりそうだ。
「久しぶりの再会に乾杯。」
お互いドリンクバーで飲み物をついで、それで乾杯した。
自分でも意外だったが、昔から仲良かったかのように
普通に話が出来た。
僕が変に構え過ぎていたのかもしれない。
僕は現状についてありのままを自然と話した。
酒井の現状はこうだ。
高校卒業後、情報処理系の専門学校に進学し、
その後、鉄鋼関係の会社で研究とかやっているらしい。
話をしていて、立派に社会人として生きている酒井に憧れを抱いた。
それと同時に今の自分が情けなくなった。
会話を重ねるに従って益々その感情は強くなった。
背格好は僕とほとんど同じ。髪は明るい茶色。
顔はかっこいいと思う。言い過ぎかもしれないが、
どこかのモデルの様に見えた。
高校の時と変わらない。内面も外面も男女問わず人気があった。
そんな彼を無意識に僕自身と比較し敬遠していたのかもしれない。
僕は割と童顔で、頼りない・女々しい・弱そう、そんなイメージだ。
性格も一匹狼で協調性なし。そして根暗。
僕の気持ちはすっかりしぼんでしまい、早く飯を食って帰りたくなった。
しかし、30分以上経っても料理が来ない。
周りの客も苛立っている様子が分かる。
「秋山は昔と全然変わってないね。」
「えっ?」
「全然垢抜けてないって言うか大学生には見えないな。」
「それってどういう意味だよ。」
「悪い意味じゃないって。」
「そういう酒井こそ昔と変わらずかっこいいやん。ほんと羨ましいよ。」
「まあ、今日はちょっと気合いれてきたしな。
普段はダサい作業服来て仕事してるよ。」
僕だって精一杯オシャレしてきたつもりだったが、
酒井の前では霞んで見えた。
今や酒井の前の僕は劣等感の塊だ。
そうこうしていると、やっと料理が来た。
食欲はとうに吹っ飛んでいたが、
食べないと帰れないという思いから箸を持った。