「えー、年齢は裕司と同じ19でいい?」
「いえ、僕は誕生日が過ぎましたので20歳です。」
「20歳ね。飲食の経験は?」
「はい、高校の3年間居酒屋でバイトしてました。」
「いいねぇ。住んでいるところは?ここ11時半閉店なんだけど、閉店作業なんかがあって大体12時前後に終わることになるけど、終電は何時かな?」
「住んでいるところは大森なので終電は1時近くまであります。」
「じゃあ給料は・・・」
気付くと俺はちゃっかり面接を受けていた。
面接というのは予め日時を電話で決めて、写真付きの履歴書を持ってようやく行われると思っていた俺は戸惑っていた。
しかしなかなか行動できない自分を知っているからか、これでいいとも思っていた。
むしろ自身にうっすら関心していたかもしれない。
こんな突然な場面でも受け答えはできているし、楽しんでいた節もある。
まさか冗談半分でついていった友人のバイト先で即日に面接されるなんてなかなかない体験だ。
「よし。以上。合格。」
対面に座った店長は笑顔で言い放った。
まさかその場で合格が言い渡されるとは。今日はまさかの連続だ。
「あと髪の毛だけど…秋山くんは問題ないね。体育会系のような髪型だけどなにかスポーツやってる?」
「あぁ、小さい頃から高校まで野球やっていました。大学入ってからはなかなか出来ないですが、運動は好きです。」
「へぇ、甲子園は?」
「行きましたが、二回戦まででした。」
「成る程ね。俺も高校まで野球部だったよ、もしかしてキャッチャー?」
「はい、キャッチャーでした。」
自分が野球部だったと言うとたまに聞かれる質問で、何故だかは想像が付く。
「やっぱりね。どおりでガタイが良いわけだ。」
店長は得意気だった。
「身長も高いし…制服はLLかな。用意しておくけど、もし首回りや肩幅が狭いようなら言って、3Lもあるし。」
「はい、ありがとうございます。それで出勤はいつからですか?」
「んー、22日の火曜日の17時かな。どう?問題あるかな?」
俺は手帳を開き5日後の22日の火曜に問題は無いか確認した。
そこには『18時 横浜 澄乃』と殴り書きをしてあった。
しかし俺は「その日で問題ないです。」と了承した。
「じゃあ22日の17時によろしく。その日は同じ時間に裕司も入ってるから秋山君も一緒に来るといいよ。」
「はい。そうします。」
そう言った後店長は思い付いたように口を開いた。
「そうだ、秋山が二人になるわけだから下の名前の方がいいな。確か耕一って言ったね。耕一はどう書く?」
一瞬「どうかく」の意味がわからなかったが、すぐに何を聞きたかったのか理解した。履歴書を出していないから字体を見せていないのだ。
「耕すに漢数字の一です。」
「耕すに一で耕一な。よし、耕一これからよろしく。」
少し声を張った店長は手を差し伸べ握手を求めた。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
握手をすると力強く握られた。案外店長も体育会系なのかもしれない。
「あっ、そうだ。悪いんだけど写真付きの履歴書を明日にでも出してもらえないかな?手続きに必要だからさ。あと給料の振込先の通帳と印鑑。出勤の当日はメモとボールペンと革靴と笑顔をよろしく。」
「はい、わかりました。」
気さくな人だと俺は笑った。
「裕司ー!耕一が合格したぞー!」
店長がそう叫ぶと奥から裕司が顔をだした。
「おー!おめでとう!頑張ろうぜ!」
喜んでくれている裕司の向こうにフロントで煙草を吸ってパソコンをいじっているもう一人の秋山が見えた。
帰り際、相変わらず愛想笑いを撒く秋山に俺ははっと思い出したことを思わず口にした。
「そういえば僕、秋山さんと同姓同名の友達がいました。」
秋山一平。小中と同学で出席番号でそいつがいるときだけは俺は二番だった。
別に悔しかった訳ではなく、印象的だった。
そしてそいつ自体も印象的だった。
いつも一人で本を読んでいて、だけど苛められているわけでもなく、誰とも関わろうとしなかった。
端正な顔立ちで女子からもモテてたっけ。そんなのあいつは全く相手にしていなかったが。
しかしその大雑把な部分しか覚えていなかった。大した関わりもなかったからだ。
「端正な顔立ち」と言ったわりに顔が思い出せないのは、そんな話を耳にしたという記憶だけだったからだ。
しかし目の前の秋山一平は自分と同い年ではない。
ましてやここは東京で、俺の地元は北海道だ。
ありえない。
そう俺が思ったのをわかったかのように秋山は言った。
「そうですか、でも私には秋山耕一という友人はいないですね。」
「そうですよね。いや、すいません、変なこと言っちゃって。」
俺は苦笑しながらわざとらしく後ろ髪を手で押さえた。