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淋しいと思う時2
 耕一  - 10/12/25(土) 4:46 -
裕司のバイト先に着いたのは16時過ぎだった。
看板が点灯していないところを見るとまだ開店時間になっていないらしい。

改めて看板を見ると深い青に白い字体で『ギルド』と書いてあった。


「店は階段上がるとすぐある。店長がいるはずだからとりあえず紹介すっか。」


そりゃそうだ。と思いながら裕司の後を歩き、階段を上がったところにある扉を通るとスーツ姿の小柄の男がいた。


思っていた以上に早い店長らしき人との対面に思わず笑ってしまった。

向こうも知らない人間がなにくわぬ様子で入ってきて少し戸惑っているようだった。


「高尾さんおはようございます。」

「あぁ、おはよう。」


高尾と呼ばれた男はこちらを気にしながらも裕司に挨拶を返した。


「あの、こいつ俺の大学の友達で秋山耕一っていうんですけど、バイト探しててそれでうちにどうかって話してて…あっ、耕一、こちら店長の高尾さん。」


俺の方に向きなおった店長は俺が「はじめまして」を言う前に「マジで!?」と目を大きくして言った。


「はじめまして秋山です。」
ようやく挨拶が出来た俺は店長を観察した。

黒のストライプのスーツに紺のグッチのネクタイ。髪は短く整髪されていた。黒い地肌は二重の大きな目を目立たせた。
歳は30代後半のようだが、口調と見た目は若い。若作りしているわけではなく、落ち着きと言うものを好んでいないのだと思った。


「そっかそっか。秋山君。うちで働こう。うん、そうしよう。」

「いえ、あのまだ決めたわけでないんです。というか急すぎてなにがなんだか…あっ、急に伺ってしまって本当に申し訳ないです。」

「いいんだよいいんだよ。見たところしっかりしてるし、いやぁほしいなぁ。
聞いてるかもしれないけど、今うち人足りなくてさ、本当に猫の手も借りたい状態なんだ。実際働くとしたら週どれくらいシフト入れるかな?だいたい17時から入ってもらうと思うんだけど。」


「そうですね…月曜は6限があるので無理ですが、それ以外なら。」

展開の早さに慌てつつも落ち着いて返答した。

店長は裕司の方をちらっと見た後、笑顔で「完璧。」と俺の目を見た。


あれ、俺これでいいのか?
と疑問に思っている時に店の奥から人影が現れた。


「高尾さん、私先に休憩いただきますよ。」


下は黒いパンツに上は白いシャツと黒いベストを着た男が姿勢良く歩いてきた。
シャツの第一ボタンを外し、ネクタイを緩め、腕捲りという格好は丁寧な姿勢と言葉遣いとアンバランスだった。
髪は短く整髪されてはいるが店長と比べるとラフだった。
歳は20代半ばといったところだが、頬が痩けているところを見るともう少し上かもしれない。


「おう、裕司おはよう。」
挨拶がてら胸のポケットから煙草を取りだし火を着けた。


「おう。」と一言返した裕司に俺は違和感を感じた。

年上に対して余りにも言葉が軽すぎるからだ。
同じ元野球部としては年上や目上の人は敬うことは当たり前だとお互い身に染みているはずなのに。

この職場はそういった部分も良い意味でラフなのかもしれないが、俺はあまりそういうのは好きではなかった。
少し懸念を感じた俺にその男はすぐ気付いた。


「これは、失礼しました。裕司、その方は?」
男は火を着けた煙草を然り気無く背中に隠し愛想笑いをした。


「これから一緒に働く秋山君。裕司と同じ大学なんだ。」

そう答えたのは店長だった。


「あの、まだ働くと決まったわけでも決めたわけでもないんですが…」


「大丈夫だって。面接は俺がやるし、落とす気はさらさらないよ。あっ、それとこっちは…あっ、…こっちも秋山君。秋山一平。このビルのリーダーなんだ。」


半ば強引な店長に押されながらも、俺は何かを思い出そうとした。

「・・・同じ秋山ですね。僕は秋山耕一といいます。もし一緒に働くとしたらお世話になります。よろしくお願いします。」

まだ採用されたわけでもないのでなんとも不思議な挨拶だが、こうとしか言いようがなかった。


「秋山耕一・・・?」


一平と呼ばれた同じ秋山は、微かな声で疑問に思ったように俺の名を復唱した。


しかしまた先と同じ愛想笑いで「秋山さんがよろしければ是非一緒に働きましょう。待っています。」と言った。


俺はその秋山にあまり良い印象を持たなかった。


なんだか全てが他人行儀で、壁を感じた。
他人だから当たり前なのだが、徹底されたあの態度が、今まで俺が関わったことの無い人間の部類なのだと思わせた。


引用なし

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