大学に入学してから1年が経った。
大学生というのは意外と忙しいということを学んだ一年だった。
「なぁ耕一、バイトしないか?」
大学も二年目になり授業数も減り、時間に余裕ができアルバイトでもしようかと考えていることを友人の裕司は知っていた。
「実は俺のバイト先、この時期だから就職で辞めちまった人多いんだ。んで人が足りないから誰か紹介してくれって言われてて。」
裕二が働いている店は品川にある居酒屋だった。
若い女性をターゲットにしたような洒落た酒や料理を出している店。
一度行ったことがあるので知っていた。
広い店内、女性が喜びそうな装飾、ジャズが流れていかにも都会といわんばかりの雰囲気だった。
「んー、面白そうだな。」
飲食店の経験はあった。
高校時代部活の傍ら居酒屋で働いてコツコツと貯めた金で部活用のシューズを買ったくらいで、自分は飲食に向いているとさえ思った。
「もしその気なら今から面接に来ないか?」
そう言ったのは帰宅途中の山手線内、ちょうど五反田駅に着いて扉が開いたところだった。
「今か?急だなぁ。そんな連絡もしないでいいのか?」
「それくらい必死なんだってよ。いつでも連れてこいって店長から言われてる。これからなにか用事あるなら無理にとは言わないが。」
この後用事と言える用事は無かった。
帰ってから3日後提出予定のレポートを纏めて、タウンワークとにらめっこして、最近たるみがちな身体を気にしての筋トレを考えていたくらいだった。
勢いがなければなかなか行動できない俺は緊張しながらも裕司のバイト先についていくことにした。