もう12月だった。
東京の冬は初めてで、イルミネーションのすごさに感動する。
ってか11月からクリスマスのイルミネーションってどうなのよと思いなが見つつ、一応今良い感じの人のことを考えていた。
相手は大学2年。身長はおれより低く、歳はタメで、魅力的な人なんだけど、夏休みあけてからはお互い自分の予定が忙しくて会えていない。
おれはクリスマスくらいは一緒に祝ってみたいと思っていた。
「おいーこれやっぱ送料ケチらないで送ってもらえば良かったんじゃね?」
話しかけてくるのは、先日もうちに来た例の友達。
サークルでクリスマスパーティをやるんだけど、ツリーがほしいと先輩が言いだし、それを買うのがおれの役になったのだ。
「うるせえな。ツリー運ぶから家に行きたいって言ったのだれだよ。」
事前に買って、おれの家で一時的に置くことになったのだ。
当日使ったらまた来年までおれに押しつけるつもりだろうか。今は良いが夏は邪魔だ。
「そりゃそうだけど、これちょっと重いしデカい。寒い。」
“こいつ”はおれのルームシェア先を異様に気に入り、あれ以来頻繁にまた行きたいと言いだすようになったのだ。
なんでそんな好きって聞いたら「自宅より落ち着いたから。」とのこと。
そういやこいつ実家生だからな。親元を離れた環境に憧れる気持ちはわかる。
「頑張れよ。運んでくれたら家でご飯食わしてやる。」
「マジで?やたっ。」
今日はテツに了承は取ってないけど、運んでくれたことを言ったら許してくれそうな気がする。
電車の中での痛い視線を感じつつ、到着。
17時半。今日もまだテツは帰っていない。
「テツくんて忙しいのな。」
「みたいだな。」
おれは考えても無駄なので、あまり想像しないようにしているが、やっぱり“こいつ”は色々気になるらしい。
「よし、ご飯作るからちょっと手伝って。」
「え〜、おれも作んの!?」
「皿出したり洗ったりする程度。お前も料理のレパートリー増やせば?」
「へいへーい。」
今日は仲良くこいつとご飯を食べる事に。
ほぼおれが全工程をこなし、19時ちょっと前。あとは盛り付けるだけだ。
ちなみに今日はシチューである。
やつはリビングでバランスボールにぶよぶよ乗りながらテレビを見ている。
おれがよそっていると、玄関の開く音。テツが帰ってきた。
靴を脱いで部屋のドアを開けて閉める音。
しばらくしてまたドアが開いてテツがリビングに入ってくる。
「ちーっす(照笑)」とこいつが馴れ馴れしい挨拶。おま、何そんないきなり距離縮めてんの。
「おかえり。あの、今日友達に荷物運んでもらったから、お礼にご飯作ってあげることにしたんだ。無断でごめん。」とおれが謝ると
「大丈夫ですよ。」と言って笑った。鼻が赤い。
“こいつ”の方を向くと
「お疲れ様です。ゆっくりしてって下さい。」と言った。
向こうもえへへ、と気持ち悪い照れ笑いをする。
それっきりテツはまたふいっと自分の部屋に戻っていった。
おれはもう慣れっこだけど、こいつはぼーぜんとしている。
「ご飯できたよ。」
「・・・。」
「おい、ご飯できたってば。」
「ねぇ、シチューまだある?」
「なんで?まだあるけど。」
「じゃ、テツくんも一緒にご飯食おうぜ。」
「え?」っとおれが聞き返すまでもなく、やつはテツの部屋に直行。
コンコン。とノックをすると、奥で「ちょっと待って。」とテツのくぐもった声。
やつは「あ、そのままで良いんですけど、ご飯作りすぎたんで、一緒に食いませんか?おれら、リビングで食べてるんで、テツくんも良かったら。」と直球。
向こうは少しためらって、わかりました、と返事をした。
それを聞いてから奴は戻ってくる。
「おい、良いのかよ。」
「良いって、何が?」
「いや、なんか誘うだけ誘った感じでさ。」
「良いんじゃね?」まぁ良いのかな。
俺らが先にシチューを食っていると、リビングのドアの開く音。
テツは黒のパーカー姿だった。着替えてたのか。
「あの、良いんですか?」と遠慮がちに聞くテツ。
「良いよ。こっちこそいきなりこいつがごめん。」
「あ、良いんです。中途半端な時間に帰って弁当にしようか迷ってたんで、助かります。」ありがとうございます。と言って自分でよそいに行くテツ。
その間おれがやつを見ると、やつはおれを見てにやにや笑っていた。