霧「あ、すみません、15時にお約束してます、池上と申しますが。」
不動産「あ、はい、お待ちしておりました。」
淡々と話を進めるきいちゃんの脇で、俺はただニコニコしてるだけだった。
俺がきいちゃんにしてあげられる事って、美味しい食事を作ったりする事だけだなと、つくづく感じる。
不動産「ではまずお下見ということで、車で現地に参りますので、少々お待ち下さいませ。」
霧「はい。」
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不動産屋の車で現地へ。
建物は5階建てで、少しだけ古い感じもするけど、ちゃんとエレベーターもあった。
俺達の求めていた物件は、この4階にある。
不動産「こちらになります。どうぞ。」
不動産屋がカギを開け、ドアを開けると、そこには・・・
十分広すぎるくらいのリビング、対面式のキッチン。日当たり良好は嘘じゃなかった!
リビングに隣接した寝室も、ベッドを置いてもまだまだ余裕がありそうだ。
クローゼットも大きめで、既に持っているタンスも使えば2人分は余裕で入るだろう。
俺「きいちゃん^^」
霧「うん^^」
不動産「いかがですか?」
霧「すごく良いです!^^な?」
俺「うん!」
不動産「水回りも綺麗ですよ。リフォームしたばかりですし。」
霧「へぇ〜!」
洗面所も見てみると、十分な広さ。洗面台もピッカピカ。
そして・・・肝心の浴室は、今のよりかは確実に広めのバスタブ!
俺「バスタブ広!^0^;」
霧「うわこれなら足伸ばせそうだな^^」
俺「うん^^ あ、それに。」
霧「ん?」
俺「(お湯の中で出来るかもな^^)」
霧「(バカッ^^; でもその通りだな^^)」
不動産「お手洗いもご覧になります?」
霧「あ、はい。」
洗面所に隣接してるトイレの戸を開けると、そこには願ってもなかった物があった。
俺「ウォシュレット!」
霧「お!良いねぇ^^ (処理が楽になるな^^)」
俺「(う、うん^^)」
さっきから耳打ちばかりしてる俺たちを見て、不動産屋もさぞかし訝しげだったかもね^^;
不動産「いかがでしたでしょうか?」
霧「決めちゃう?」
俺「もちろん!^^」
霧「はい。ここ契約します!^^」
不動産「かしこまりました。ありがとうございます。では、お店でお手続きを致しますので。」
=====
不動産「お2人でお住まいになるとのことで。」
霧「あ、はい。家賃は折半するつもりです。」
不動産「かしこまりました。ご契約は池上様のお名前で。」
霧「はい。保証人は僕の父にお願いしています。印鑑証明は今週中に郵送で良いでしょうか?」
不動産「はい、それで結構でございます。ではこちらに保証人様のお名前とご住所、ご勤務先の詳細と、あと大体で良いのでご年収もご記入ください。」
霧「はい。」
きいちゃんは、不動産屋の人に言われ、黙々と書類に記入していった。
霧「ゆう、俺のバッグから手帳出して。」
俺「ん、うん。えっと・・・これ?」
霧「サンキュ^^」
手帳のメモを見ながら、書類の空白を着々と埋めていく。
にしても・・・きいちゃん・・・字がきれいだな・・・。
=====
不動産「・・・はい。大丈夫ですね。審査も問題無く通るかと思いますよ。」
霧「そうですか。良かったです^^」
不動産「では、後は保証人様の書類をご郵送頂いて、審査の結果が出次第、こちらの携帯電話の方にご連絡という形でよろしいですか?」
霧「はい。よろしくお願いします。」
不動産「かしこまりました。本日は誠にありがとうございました。」
霧「こちらこそ、お世話になります。」
俺「ありがとうございました。」
不動産屋から出た瞬間、俺ときいちゃんはハイタッチ!
俺「夢じゃねえよな・・・?」
霧「夢じゃねえよ^^」
俺「うわ〜・・・近いうちにあそこに住むんだ・・・」
霧「俺と2人の(愛の巣だな^^)」
俺「ンフ^^ マジで嬉しい^^」
霧「俺も^^」
俺は今すぐにでもきいちゃんに抱きついてキスしたかったが、街中だし、我慢するのに精いっぱいだった。
でも心の中ではかなりテンションがマックスで、今にも爆発しそうな感じだ。
霧「帰ろっか。^^ 家でゆっくりしよ。」
俺「うん。^^ 夕飯はうちで何か作るか^^」
霧「何作ってくれんの?^^」
俺「ん〜、あ、じゃ今日はパスタにするか。青の洞窟のパスタソースあるし。」
霧「青の洞窟って、あのちょっとセレブっぽいやつだよな^^」
俺「それ^^ あのペペロンチーノがウマいんだぜ。」
霧「良いねぇ^^」
きいちゃんも俺も、無事に引っ越し先が決まって、ホッとしているのと嬉しいのとで、胸がいっぱいだった。
こんなにトントン拍子に物事がうまく進むのは、常日頃の行いが良いおかげかな^^
とにかく2人とも、近々始まる同棲生活に心躍らせながら、電車に乗って家路についた。
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不動産屋で無事に手続きが終わり、審査もほぼ通ると言われ、俺はかなり安心した。
俺としては、ゆうを早くあの街から遠ざけたい一心だ。
変質者をとっ捕まえてぶん殴ってやりたいが、それよりも、ゆうが安全に暮らせる様にする事が大事。
どちらにしろゆうは、俺と同棲出来る事に、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。
そうだ。この顔だ。
俺がゆうを守っていきたいと思えるのは、ゆうのこの嬉しそうな笑顔をいつまでも見ていたいからなんだ。
付き合い始めてより1年半ちょっと。
ゆうは俺にとって、かけがえのない親友であり、唯一無二の恋人。
家族の次に大切な、俺の宝物の様な存在だ。
その可愛らしい笑顔や様相は、いつの間にか俺を虜にしていた。
そしてそれは喜ばしい事だ。
少し込み合っている電車に揺られ、可愛い笑顔を浮かべてるゆうを見ながら、俺は凄く癒される気がしていた。
悠「きいちゃん?」
俺「ん・・・どした?」
悠「いや、さっきから俺の顔じーっと見てたからさ。」
俺「あ〜・・・いや、何でも無いよ^^」
悠「そ?なら良いんだ。俺の顔に何かついてんのかと思った^^;」
俺「ついてるよ。」
悠「え・・・!?何何。」
俺「(可愛いエクボと目が2つ^^)」
悠「な・・・!?*ーー*」
こういう照れるところも、心をくすぐるんだよ。
=====
電車を乗り継ぎ、1時間ほどで自宅のある街に辿り着いた。
辺りはもう暗い。
俺「俺のそば離れんなよ?」
悠「うん。ありがと^^」
人通りが少なめだという事もあり、ゆうの手を俺のコートのポケットに入れ、中でギュッと手をつないで歩いた。
悠「暖かい^^」
俺「こうやって手繋ぐのって恋人っぽいよな^^」
悠「うん。いつも外じゃ手繋げないからメチャドキドキする*^^*」
俺「そうだなぁ・・・何でこの国はそういうのに理解が無いんだろ・・・。」
悠「アメリカとかじゃフツーに市民権あんのにね。」
俺「いっそアメリカに移住しちゃう?^^」
悠「ばーか、俺はまだ良いけどきいちゃん英語ダメダメじゃん^^;」
俺「あ・・・そっか・・・アハハ^^;」
悠「ハハ^^」
2人で寄り添いながらゆっくり歩いて、ゆうのアパートに着いた。
もう2月も近いがまだまだ冷える。暖房を消して出てきた部屋は、やっぱり底冷えする。
俺「寒っ・・・」
悠「冷えるなぁ・・・今ファンヒーターつけるね。」
小さくても性能の良いファンヒーターをONにすると、心地よい温風が吹き出して、部屋を徐々に温めていった。
=====
悠「ん、このスープ案外ウマいかも^^」
俺「マジ?^^ ヨッシャ!」
青の洞窟ソースを絡めた多めのパスタと、俺が作ってみたコンソメスープ。
どちらも美味しい夕飯だった。
悠「きいちゃんもやれば出来んじゃん^^」
俺「まあな^^ でも・・・コンソメ溶かしただけだけどな。^^;」
悠「それでも料理は料理^^」
作った料理が初めて褒められ、俺はものすごく嬉しかった。
お世辞は滅多に言わないゆうの褒め言葉だからこそ、信憑性があるってわけだ。
悠「今日は2人で洗い物な^^」
俺「え、良いって。俺の担当だろ?」
悠「ダメ。今日はきいちゃんもスープ作ったんだから。片付けも2人でやるんだ。」
俺「はぁ〜・・・頑固だなぁ・・・分かったよ。アリガト^^」
ゆうときたら・・・本当にどこまでも真面目だな・・・。
バカ正直で天然と呼ばれる俺と、真面目で優しいゆう。
ちょうど良い感じに釣り合ってるんだな。
これが自然・・・。嫌いじゃ無いな・・・むしろ好き・・・。
多分ゆうは、俺に甘えっ放しじゃダメとか思ってるんだろうな。
でも、もっと甘えていいんだぜ・・・。
甘えてくれた方が、俺としても安心だしな。
俺達の間のイニシアチブは、どっちのものでもないから。
持ちつ持たれつ、上手にやっていこうな。
<続きます。>