何とか迷わずアパートの前までたどり着いた。
寒い冬なのに額にはジンワリと汗がにじんでる。
エレベーターで4Fまで上がり、部屋のドアを開けようとする・・・が・・・
鍵が閉まってる。
え?なんで閉まってんの・・・?
俺は鍵を閉めずに出てった。きいちゃんは中にいたはずなのに。
あ、もしかして、お互い合鍵交換してあったから、鍵閉めて帰っちゃったのかな・・・。
でも俺、鍵は置きっ放しで飛び出しちゃったから、きいちゃん連れてこないと入れないな。
きいちゃん、家にいるかな?
携帯も中に置きっ放しだし、とりあえずきいちゃんのアパートに向かった。
***
玄関をノックすると、玄関が静かに開いた。
俺を見て、一瞬固まるきいちゃん。
霧「あ・・・ゆう・・・」
俺「話そう。」
霧「う・・・うん・・・。」
***
霧「何か・・・飲む?」
俺「お茶ある?」
霧「冷たいの?」
俺「うん。」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取りだして、俺に差し出した。
ベッドに座り、キャップを開けて、勢いよく口にお茶を注ぎこんだ。
ノドがカラッカラだったから、スゴク美味しく感じた。
つかこの光景、さっきと真逆だな。
俺「ふぅ〜・・・」
お茶を飲んでほっとする俺の脇で、きいちゃんが静かに座ってる。
話さないとな・・・。
俺「きいちゃん、俺・・・お前の事信じてるよ。」
霧「・・・。」
俺「今回の事はマジありえないけど・・・でも信じてる。」
霧「・・・。」
俺「もう絶対浮気しないって約束な?」
俺は小指を差し出した。
指切りげんまん。
・・・でも・・・きいちゃんは指をひっかけようとしない。
ていうか何も言わない。
俺「きいちゃん?」
霧「しばらく・・・距離置こう。」
え・・・
距離・・・?
霧「俺お前裏切ったの事実だし・・・俺このまま何もなかったみたいに付き合えねえよ・・・」
俺「何・・・言ってんだよ・・・」
霧「ゴメン・・・」
俺「ゴメンって・・・そんなん俺やだよ・・・きいちゃん俺の事・・・もう好きじゃなくなった・・・?」
霧「そんなんじゃない・・・まだお前の事・・・」
俺「だったら距離置きたいとか言うなよ・・・!勝手だよ・・・!」
霧「でもこのままじゃケジメつかねえし・・・」
俺「ふざけんなよ!」
怒るつもりなんか無かった・・・声を張るつもりなんて無かった。
でも・・・きいちゃんの意味不明な態度にイラ立ちを覚えて仕方なかった。
俺「俺と別れてぇんならはっきり言えよ!」
霧「そんなんじゃないって・・・!!」
俺「今回の事はもう良いっつってんだろ!」
霧「俺がダメなんだよ・・・!俺他の人にちょっとでもなびいたんだぞ・・・俺自身が許せねえんだよ・・・」
俺「クッ・・・!」
ドス・・・!
俺・・・この時・・・初めてきいちゃんを殴った・・・。
いや、人生で初めて人を殴ったんだ・・・。
霧「イテ・・・!」
俺「そんなに優柔不断だったのかよ・・・」
霧「殴んなくても良いだろ・・・!」
俺「もう良い・・・やっぱり男同士が付き合うとこんな終わり方しか出来ねえんだよ・・・!」
霧「終わらせるなんて誰が言ったんだよ・・・!お前の事まだ好きだけど・・・今の俺にはもったいねえんだよ・・・」
俺「じゃあどうすんだよ!はっきりしてくれよ・・・そうじゃないと・・・」
もう・・・分かんねえよ・・・。
テーブルの上に俺のカギがある事に気づき、それを鷲掴みにして、きいちゃんのアパートを飛び出した。
霧「ゆう!待てよ!」
俺「ついてくんな!」
白昼の住宅街に、虚しくも響く俺ときいちゃんの大きな声。
俺は全速力で逃げた。
途中できいちゃんも諦めたみたいだ。
玄関につくなり、俺は鍵を閉め、カーテンを閉め、ベッドに潜って、夜まで動かなかった。
何もかもイヤになった。
自分勝手すぎるよ・・・
勝手に浮気して・・・
勝手に距離置きたいって言って・・・
恋愛の神様へ。
俺たちは・・・別れるべきなんですか?