「別れましょう」
フォークを置き、真奈美が静かに言った。交際を初めて6年が経過。ついこの間、そろそろ結婚ね、なんて話していた。その真奈美から告げられた突然の別れ。
「なんで?」
心からの疑問が口から溢れた。
「あなたとは遊びだったの。優しいから、たくさんいいもの買ってもらおうと思って。恋愛なんか興味ないし」
真奈美はそう言うと無表情で立ち上がり、1万円札を置いて足早に立ち去ってしまった。俺はポツンと取り残された。
2ヶ月も前から予約していた、この高級レストラン。交際を始めた記念日の今日、俺はこのレストランでプロポーズするつもりだった。それが記念日に破局。
ポケットの中の婚約指輪のケースがやけに重く感じられた。
「あ、すみません」
店員に声をかけた。
「はい」
「赤ワイン、ボトルでください」
「かしこまりました」
こんな日は酒に頼ろうか。