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セミが鳴いていた。 桐也 07/3/29(木) 17:37
セミが鳴いていた2 桐也 07/3/29(木) 17:39
セミが鳴いていた3 桐也 07/3/29(木) 17:40
セミが鳴いていた4 桐也 07/3/29(木) 17:47

セミが鳴いていた。
 桐也 E-MAIL  - 07/3/29(木) 17:37 -
学校がないと、必然的に起床も遅い。
形だけテニス部に所属しているものの、
めっきり幽霊部員なおれ。
大会どころか、練習さえ出たことさえない。
三年のくせに後輩の顔さえ分からない。
強制的に購入させられたテニス部オリジナルTシャツは
すぐにパジャマへと成り果てた。
暇すぎてごろごろ布団の上でのた打ち回っていると、
亮太からメールが来た。

亮太というのは、クラスメイトでおれの彼氏で、
なんというか、奇妙な奴だ。
顔もルックスも身長も明らかに平均以下。
なのに入学当初から亮太の周りには女子が群れていた。
中学の頃から【ゲイ】を自覚していたおれはなんとも思わなかったけど
周りの男子はひどく不快だったに違いない。
1年生の6月初めには、亮太に対する陰湿ないじめが始まった。
言っておくがおれは加害者を誰一人知らない。
最近テレビなどでよくいじめの話が取り上げられるが、
現場、学校で起こっているいじめは
もっとシステムめいていて、主犯格が見えなくて
疑い始めたらきりがないようなものだ。
今隣の席で笑いかけてきた奴が主犯格かもしれない。
それがいまのいじめだ。

引用なし

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セミが鳴いていた2
 桐也 E-MAIL  - 07/3/29(木) 17:39 -
亮太いじめに参加しなかったおれは、
必然的にクラス男子のなかで浮き始め、
いつの間にか亮太と仲良くなっていた。笑
今思えば、おれはシステムめいたいじめに関心がなかったのではなく
亮太をいじめる見えない奴らがきらいだったのかも。

所属しているサッカー部でもいづらかったのだろう。
亮太は夏休み前に部変更をしてテニス部へ入ってきた。

付き合うきっかけになったことが起きた日。
先輩たちが帰ってだれもいなくなった8月10日の部室。
おれは唐突に良太にキスした。

セミが鳴いていた。

今思えば突発的で、
前々から「しよう!」と意気込んでいたわけでもなくて。
手を伸ばせば触れるやわらかそうな唇
触れている汗ばんだ肩
刹那的に欲情した結果のキスだった。

引用なし

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セミが鳴いていた3
 桐也 E-MAIL  - 07/3/29(木) 17:40 -
10秒くらい亮太の唇をむさぼった後、
われに返った。
ああああああ!!!!!!
亮太がなんともいえない表情で見つめてくる。
沈黙。
なんていえばいいんだ、ここはもうごまかすべきか
ゲイをカミングアウトして謝るべきか(付き合えるとは思ってなかった)
みっともないくらい自分の顔が赤くなり、汗が噴出すのがわかった。

亮太は泣いた。
泣きながら言った。
泣き顔は見ていない。おれの胸に顔をうずめていたから。

おれずっと男しか好きになれなくて、好きになるのが怖くて
女の子としか接せなかった。女の子としゃべると男からきらわれて
どんどんだめになって(このあたりから支離滅裂)
好きになってもらおうなんて思っていない、きらわれたくない

おれは再び亮太にキスした。
いつだって沈黙は突然だ。
前のような性欲の塊ではない。
純粋に亮太が愛しく思えた。
まっすぐ心をぶつけてきてくれたから。
こんなまっすぐなのいつ以来だろうと思った。
同時にすっかりまがってしまった自分を恥じた。

引用なし

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セミが鳴いていた4
 桐也 E-MAIL  - 07/3/29(木) 17:47 -
その後何をしたのかはあまり覚えていない。
起こったことがあまりにも鮮烈すぎたから。
でも亮太は覚えてるだろうな。
まめな奴だから。
二人で校門まで歩いて、バスを待った。
バス通学の亮太がバスに乗ったのを確認した後
チャリ通のおれは校門の石畳に座り込みメールを打った。もう何を打ったかさえ覚えていない。
それぐらい無我夢中で自分の心の中を文字に変えた。
見直すこともなく送信。
ふう、とため息をついて辺りを見回せば
もう暗くなっていた。
どこかでパトカーが走り
どこからか焼き魚のにおいがした。

もうセミは鳴いていなかった。

返事が来たのは夜中だった。
一言
好き、付き合いたい

たかが携帯に表された文字に
こんなに喜んだのは生まれて初めてだったかもしれない。
これから先もないと思う。
死んでもいいと思った。

つづきます*

引用なし

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