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けやき物語 you 13/10/28(月) 23:48
けやき物語2. you 13/10/29(火) 0:38
けやき物語3. you 13/10/31(木) 1:34
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けやき物語
 you  - 13/10/28(月) 23:48 -
「おつかれさまです、お先に失礼します」
「金曜なのに台風とか最悪だなー。お疲れ様ぁ。」
「ありがとうございます、先輩も気をつけください。お疲れ様です。」
「おう、堀川もな」
再び会釈をすると、ジャケットを着てエレベーターへと向かった。


高層ビルから外に出ると、雨は降っていないものの、次第に風が強くなり始め落ち葉が舞っている。
地下通路に入ると風の通り道になっており、外以上に風が強い。歩く人々は皆下を向いていて、その姿が滑稽に思えるくらいだった。

そんな光景を楽しみながら歩いたおかげで、新宿駅まで長く感じる通路もすぐだった。

駅では係員が必死にメガホン片手に、電車が止まる恐れがあることをアナウンスしている。
それを横目に、出発間際の電車に乗り込んだ。帰宅ラッシュの時間は過ぎているが、下り線はやはり混んでいる。
車窓から外を眺める。俺は、この時間が好きだ。何も考えずにただボーっとしながら毎日変わらない景色を見るのが。
どんどん高層ビルから離れて住宅街になる。同じ景色だからこそ、季節の移りかわりがよくわかる。

「まもなく経堂。経堂です〜」

経堂駅。東京農大の一番近い駅。そのためもあって、学生が多く、農大通りと称された商店街は、いつもにぎわっていた。しかし、そんな駅も今日はどことなく人が少なく、足早に帰路を目指しているように思える。

俺も、早く帰宅するべく農大通りとは反対側にある「すずらん通り」へと向かった。こちらの通りは農大通りとはまたガラリと印象がかわり、Barや少々高めの居酒屋があり、農大通りにくらべ非常に静かだ。
就職とともに上京して1年半経つが、お洒落なお店が多く、まだまだ自分には似合わず行けていないが事実だ。

普通に歩けば駅から10分ほどで家に着くし、何より今日は台風が接近していることもあり一刻も早く帰宅すべきであるが、

俺はとある十字路で立ち止まり、細い路地の向こうでひっそり光っている「Coffee けやき」の看板を見つめていた。

(今日、あの人いるかな・・・。)

引用なし

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けやき物語2.
 you  - 13/10/29(火) 0:38 -
ちょうど一ヶ月ほど前
そう、その日も台風の接近に伴い雨が激しく降っていた。
俺は全然効果のない傘を差しながらの帰り道、急に取引先から電話がかかってきてこの十字路で止まり、電話を取った。


内容はいつものように、ほぼクレームのようなお答えできない注文。


「・・・では、失礼します。
ったく、なんでこんな大雨の日に、しかも、こんな時間に電話かけてくんだよ。」

電話を切るころには、雨でびしょびしょになった靴さえも気にならないくらい、疲れ切っていた。


ふと、顔を上げるといつも気にしていなかった住宅地へと進む細い路地の先に「Coffe」と光る看板を見つけた。


(あんなとこに、喫茶店なんてあったんだ・・・)


何となくこのまま帰りたくない気持ちと、何か不思議な出会いをしたような気がして迷わず「Coffe けやき」のドアを開いた。


カラン、カラン。。。


中に入り、店内を見てびっくりした。
店内は薄暗い照明に、カウンター席と3つのテーブル席という至ってシンプルなつくり。
どこにでもある店のように思えるが、


「・・・似てる」


テーブルの配置などもそうであるが、置時計などのアンティークやBGMとして流れているジャズミュージック。
そう、俺が大学4年間アルバイトをしていたCoffeと雰囲気が非常に似ていてた。


そんなことを思いながら、店内を見回しボーっとしていると
「いらっしゃいませ、どうぞお好きな席に」
とマスターらしき50代の小太りのおじさんに声をかけられた。

「あ、すいません。」
俺は、促されるようにその小太りマスターのいるカウンター席へと座った。
大雨のせいか、客は俺一人であった。


「すいません、ホットコーヒーください。」


「かしこまりました。
 ゆうり、ホット1つ。」

「はいっ!!」
と、入った時には気づかなかったがカウンターの下でしゃがんで作業している男性が返事をし、姿を現した。


その「ゆーり」と呼ばれた多分大学生であろう青年は、黒髪で、何かのスポーツをやっているのか肌は少し浅黒く、そして何より身長がかなり高く、小さい店のカウンターには不釣り合いな感じがした。

しかし、てきぱきとコーヒーサーバーで仕立てる姿を見ると、この店で働いて長いのであろう。


「お待たせしました」

と、コーヒーを出す彼の顔を、なぜか恥ずかしく見れずに受け取った自分が、非常に惨めであった。


その後、マスターと少し会話をしつつ、30分ほど時間をつぶしたあと清算し、店を出た。その間、「ゆーり」と呼ばれる青年は、会話に入ることなく、コーヒーサーバーの手入れをしていた。


それ以来、その店が気に入り、週に1回ほどのペースで通っていた。


そのなかで、あの「ゆーり」と呼ばれる青年には注文をお願いすることと、コーヒーを持ってきてくれた時に「ありがとう」と声をかけるくらいであった。


しかし、今日、


この十字路で止まり「けやき」の看板をみた瞬間、


(今日、あの人いるかな・・・)


と、なぜか心がつぶやき、けやきに向かって足を動かしていた。

引用なし

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けやき物語3.
 you  - 13/10/31(木) 1:34 -
「うぁ〜〜!!もうだめだっ!!」

顕微鏡から目を離し、シャーレを机に置く。
そこには、結果を残せなかったシャーレたちが、また仲間が来たぞと言わんばかりに待ち構えていた。

「はぁ・・・」


何か月、同じ作業しているんだか・・・。
大学で生物学を学んでいたため、そのまま院に上がり「糖」の研究をして1年半。こんなにも孤独と地道な戦いだとは思わなかった。学部生の頃が懐かしい。


そもそも、学部4年だけでよかったものの就職難もあり、流れで院にあがってしまったとは間違っても声に出してはならない。
特に、「研究が恋人です!」みたいなこの研究室では、間違っても。。。


「ダメだ、今日は。もう帰る!!」


「いや、ユーリがダメなのはいつもだろ。」

いつも同じネルシャツ姿に白衣を着ている同期が座椅子の足が折れるくらいの巨漢を横に揺らしながら言ってきた。

「悪かったな!お前はどうなの?」
「まあまあ順調。卒業は確実かな」

悪い奴ではないし、わざと言っているのは分かるのだが、毎回一言多い。そして、その巨漢のせいで嫌味がよりリアルに聞こえる。

「どうだ、金曜だし飲みにでも行くか?」

「あー、今日金曜だっけ。全然曜日感覚なかったわ。てか今日バイトだから無理〜。わり〜」

「なんだよ〜。まあ、いいや。おつかれさん!」

俺は少し早いが、バイトに向け研究室を出ることにした。


外に出るといつもより風が強いことに気づく。
門で何やらベニヤ板に看板を取り付けている学部生の軍団とすれ違った。
「これ、大丈夫かな〜。飛ばされそうじゃない?」
「確かに、今回の台風ヤバいらしいよ〜」
「え〜、前回も10年に一度とかって言ってたのに!アタシ、やっぱり先輩に来週設置できないか聞いてくる!」

看板を横目で見るとそこには「収穫祭」の文字が見えた。


・・・そっか、もうそんな季節か。


学部生の時は、部活のブースを出していたので毎年準備から盛り上がっていたが、院生になるとそうもいかない。
文化祭の日も研究室に籠ってる身からすれば、ただの騒音になる。

そんなことよりも気になることをあの子達は言っていた。


そう、台風。


今週、ほとんどテレビを見ていなかった(もちろん研究のせい)ので、台風が近づいているなんて知らなかった。しかも、そんなにも勢力が強いなんて。


ただでさえ客が少ないうちの喫茶店であるので、台風なんてきたら閑古鳥状態だ。


「あ〜、今日お客さんくるかな〜〜」


そんなことをぼやきながら、チャリに乗るとバイト先へと向かった。
学部生のころから働いている「Coffe けやき」は、大学と家のちょうど中間地点にあり、どちらからもチャリで10分もかからない。
その利便性からずっと続けているし、院生になってからは研究であまり入れないもののマスターがシフトの融通を利かせてくれているおかげで今でも続けられている。
ほぼ趣味でやっているようなバイトだ。


なので、客が来ないとか本来であれば文句は言えない。


「おはようございま〜す」
ドアを開けるとコップを拭いていたマスターがこちらを見た。
「だから、ユーリ。もう夕方なんだから、その挨拶どうにかならないか?」
「すいません、なんかこの挨拶が一番しっくりきてて」

そんな会話をしながら、裏手に入り着替え始める。
といっても、ただ黒いエプロンをかけるだけであるが。

と、その時、けやきの電話がなった。いまどき珍しい黒電話で、これもアンティーク好きなマスターの趣味。

「はい、カフェけやきです。
あー、坂口さん。お世話になっています。
えー、はい、台風ですよね、私も心配ですが、うちの畑はこの前収穫したので大丈夫です。ご心配ありがとうございます。
坂口さんちは、、、え、マルチが飛んでるんですか、それはまずいですね。
え、今からですか。私も手伝いますよ!
はい、お店ですか?」

マスターがこちらをチラッと見る。


「えー、大丈夫です。
こんな天気じゃあお客も少ないので。
はい、今から支度して伺いますので、はい。
失礼します」


チリン。


受話器を置いたマスターがこちらを見た。
嫌な予感はほぼ的中であった。

「ユーリ、もうわかっていると思うけど、お店頼むね」

「いや、分かってないんですけど・・・・」

そう言いつつもマスターはエプロンをはずし、レインウエアを着始めた。


「坂口さんちの、ジャガイモのマルチ(土を覆うビニールのこと)がこの風で飛んでしまったらしく、台風来る前に貼り直すって言ってるから、
私手伝いにいってくるよ。終わったらすぐに戻るから」


坂口さんというのは、このお店の常連さんで、ここらへんじゃ有名な地主の方だ。マスターは家庭菜園が趣味で、依然その話を坂口さんに話したところ、余っている畑があるから貸してやる、とのことで坂口さんのご厚意で畑を借りることになった。
そのこともあり、坂口さんの畑の手伝いをマスターは時々している。
今日もその関係で、手伝いに行く羽目になってしまったらしい。タダで借りるのも考えものである。


お留守番を頼まれたものの、マスター不在の店を負かされるのは2回目である。前回はマスターの娘さんが急に具合が悪くなり、任された。
本当は「こんな天気だし、お店閉じちゃえば、どうですか」と言いたいところであるが、「定休日と病気以外は店を休まない」とのポリシーがあるのを知っているので、言うのをこらえ承諾することにした。

「・・・分かりました。今回の台風の勢力、前回より強いみたいなので気を付けてくださいね」

「なんかあったら携帯鳴らしてね。じゃあ、いってくる。よろしくな」


カランカラン。


ドアを開け、外に出ていくマスターをカウンターごしに見送った。
マスターが去った店内は、BGMの音がより大きく感じた。


「とは言ったものの、本当に今日お客さん来るのかな・・・」

カウンターから窓を眺めると、先ほどよりも明らかに風の勢いが強くなっていた。


そんな景色を見ていたら、ふと思いだしたことがった。


あの人も、こんな日に来たよな・・・・。


そう、1ヶ月ほど前の台風の日に訪れて、入るやいなや店内をジーっと見つめていたあの変わった人。。。


BGMを聞きながら、彼が見ていたアンティークの古時計を眺めてみた。


そういえば、最近こないよな。


台風の襲来に、淡い期待を持ちながら、外からは風に揺られて木の葉が重なり合う音が聞こえた。

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