おれは今
なにをして
いるんだろう
「…」
ああそうだ
仕事をしているんだ
男に抱かれる
カンタンな仕事
事務所のシャワーを
浴びながら
ふと後ろに気配を感じた
「オツカレ!」
「…今シャワー中なんですけど」
「冷たいなぁ」
同じ職場の先輩
ボーイ歴三年目の
ベテラン
裸でシャワー室を
覗いてくるところとか
おれに執拗に
絡んでくるところが
ちょっと苦手
苦手なんだけど
そういうところに
ちょっと惹かれる
「先輩カラダ拭かないと風邪ひきますよ」
「俺のこと心配してくれてんの?」
「…べつに」
ニヤニヤしながら
シャワーを浴びる
おれをみる
「ところで今度デートしてくれるって件」
「…社交辞令です」
「えー!」
「ボーイ同士が恋愛しちゃいけないって知ってるでしょ」
「いいじゃんデートくらい」
「ダメです」
「ケチ」
「子供ですか」
「俺じゃダメ?」
「…」
「顔も悪くないし指名も多いよ?」
「知ってます」
「嫉妬したりしない?」
「全然」
「ふーん」
「…」
シャワー室に入る先輩
「俺は…するけどね」
「えっ」
後ろから抱きしめられる
シャワーのお湯が
先輩の頭にかかる
「本気で言ってるんですか」
「俺、他のボーイを誘ったことないよ」
「…」
「指名が入るたびに、お前を思い出す」
「…」
「デートが楽しみだったから、長い夜もはやく感じた」
「…」
「本当に社交辞令なら…あきらめる」
先輩の胸の鼓動が聴こえてくる
おれはなにも言わず
ゆっくりと振り向いて
シャワーのお湯が降り注ぐなか
先輩にキスをしたー
『はい、カットー!!』
カメラがとまる
周りには大勢のスタッフ
『いいね、本物のボーイを使った企画もののDVD撮影!』
「ありがとうございます」
『次は濡れ場のシーンだからね、カラダ拭いてスタンバイしておいて』
「はい」
ぞろぞろとシャワー室から
スタッフがいなくなる
先輩とふたりきり
先輩が声をかける
「まさかボーイの仕事以外でおまえとヤルとはな」
「ですね、ちょっとなんだか照れ臭いです」
先輩がおれのカラダを
拭いてくれる
おれは小さく声にした
「ところでさっきの」
「…」
「セリフに…なかったですよね」
先輩の手がとまる
「…」
「なんていうか」
「…」
「演技ってわかってても」
「…」
「ちょっと嬉しかっ…」
顔を引き寄せ
おれの頬にキスをした
「バーカ」
フリーズするおれ
「俺が指名したんだ」
「…えっ」
「マネージャーがだれか選べって言うから…」
「…」
「おまえかなって」
顔を真っ赤にする先輩
「…あの」
「うるせえ!はやく拭け!」
タオルを頭に乗せられ
ガシガシと撫でられる
「痛たた…!」
「返事」
「…」
「待ってっから」
先輩はドタドタと
シャワー室から
出ていってしまった
はっと気付く
「濡れ場…」
顔が同じくらい真っ赤になる
お互い濡れ場なんて
慣れっこのはずなのに
意識するともう
恥ずかしくて
耳まで真っ赤にして
下を向いてしまう
おれは
先輩の後ろを
追いかけた
だれにもみられない
知られることもない
おれたちの恋は
ゼッタイ秘密