桜はみんなに人気者だ
携帯で写真を撮る人
桜の木の下で肩を組む人
お酒を飲む人
舞い散る花びらの下で
人は思い思いに話しをする
きっとそんな話しに
桜は楽しそうに
耳を傾けているにちがいない
雑草の私もまた
そんな優しくて立派な
桜が大好きだ
花は散り
やがて人もまばらになる
飲み食いして捨てられたゴミの山
無雑作に靴で踏み荒らされる
舞い散った桜の花
おい!
あやまれよ!
しかし人はだれひとりとして
振り向きはしない
桜は笑う
いいんだよ雑草くん
一瞬だっていい
人の心の落ち着く場所になればいいんだ
酔っぱらいに枝を折られ
葉桜になった桜にたいして
つまんねえと暴言を吐く人をみて
どうして毅然としていられるのか
これが桜の望んだことですか
もう夏のことしか考えていない人に
桜はまた来年も
花を咲かせたいと思うのですか
桜は笑う
振り返ってもらう必要なんてない
人には前だけ見ていてもらえればいい
一番怖いのは存在を忘れられてしまうこと
また来年も多くの花を咲かせれば
また人は私たちを見にきてくれる
それだけでいいんだ
それだけで
桜に恋をした私は
悲劇としかいいようがない
それでも
私は葉桜になったあなたが
一番素敵だと思う
強く優しくそびえる
そんなあなたを好きになれた私を
私はとても誇らしく思う
「あーもう葉桜だよ」
「残念だね」
「帰ろうっか」
「いいの?」
「いいんだよ」
春の終わりを告げる大きな風が吹く
地面でつぶれていた桜の花たちが
いっせいに空高く舞い上がる
「あっ…」
だって
来年までこうして生きる楽しみが
またひとつ増えたのだから…