「あ…もっと…」
「すっげえいいよ」
「彼氏に…おこられる…」
「知ってて誘ったんだろ?」
「いじわる…んっ」
キテルね
彼氏持ちを
抱くってのは
人さまのものを
いただくってのは
最高に気持ちがイイね
もっぱら最近は
彼氏持ちとしか寝ない
刺激が足りねえんだよ
いまさら愛とか恋とか
ぬるくてたまらねえっつの
「俺そろそろイクわ」
「あんっ…かおにかけて」
征服感で満たされる瞬間だ
肩で息をする俺
たんたんと後片付けをし
シャワーを浴びに行く相手
ふと視線を感じ目をやると
そこには相手の彼氏らしき写真
マヌケな顔して笑っている
「わりぃ…あんたの彼氏抱いたわ」
俺はきっと化け物だ
反省もしている
でも後悔もしていない
相方有りとか
エロ目かんべんなんて
書いてるやつが
これだぜ?
俺だけが責められる
筋合いはねえだろ
下着を履き
服を着る
浴室のドアが開く
「あれ、もう帰るんすかぁ?」
「ん、長居はしない主義なもんで」
「じゃあまたメールください」
「ん」
もう二度と
会わないだろうけど
「鍵はそのままでいいですよ」
浴室のドアが閉まる
もう一生見ることのない部屋
出しっぱなしの洗濯物
転がる空の柔軟剤
慣れない匂い
玄関の横には
クマの人形
オスとメスが
ハートを抱き合って
仲良く並んでいる
じゃあなとデコピン
化け物の御帰りだ
後ろから着信音が鳴るー
再び浴室のドアが開き
体を拭きながら
電話に出る相手
彼氏かららしい
「うん…うん…」
「すっごく会いたいよぉ」
そっか
俺はどうやら
勘違いをしていたらしい
化け物は俺で
相手が正常で
「浮気なんかしてないよぅ!」
彼氏持ちなのに
抱かれるってのは
『あっ』
行きずりの男に
抱かれるってのは
『もっと』
最高に気持ちがイイみたいだね
昔抱いた
あいつもそいつも
こいつらも
みんなみんな全員
化け物だ
部屋を出た
鉄の扉が音をたてて閉まり
そこにもたれかかる背中は
得てしてひんやり冷たく
奇妙だった
俺は化け物
下卑た笑みを浮かべながら
汚い目で空を見上げ
低い曇り空を罵った
「バケモノめ」