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さよならの向こう側には【涙の受験編、前編】1〜5
 長編編集部φ(..)  - 07/6/23(土) 0:54 -
梅雨の末期は長雨が続く。しかも大雨が多い。
今日も雨だ。たまには雨の音でも聞いてロマンチックな気分に…なんて気持ちには、今はとてもなれないでいた。疲労感や何よりも孤独感がそうさせている。
『独りか…』
実は、いつものメンバーの俺以外の4人が謹慎処分となったのだ。3年生に絡まれて喧嘩になったって事らしい。
俺には同じ学校に一つ違いの兄がいる。だからだろうか、俺がいる時には3年の奴らもほぼ手出ししてこない。
それなのに、最近みんなが俺と一緒にいる機会が少なくなった時に、ついにやらかしてしまったのだ。悪いのは3年の方だったらしく一週間の停学。巻き添えだったものの喧嘩両成敗って事でメンバーは3日の自宅謹慎処分となった。
みんなの事を心配しながらも孤独感に苛まれる。ヒカルにメールをしても、元気だって返事が返ってくるだけだった。
『なんで俺だけここにいるの?なんで呼ばれなかったんだろ?みんなと一体感を持ちたいのに…』
昼休みだが隣にヒカルはいない。それで仕方なく独りでボーっと外を眺めてる……。

例年より早く梅雨明けしたその日、謹慎が解けみんなが戻ってきた。嬉しい反面俺の中では疎外感が強く残り、朝からみんなに会わないでいた。
昼休みになっていつものようにヒカルがやって来た。クラスの奴らがヒソヒソ話しているのが感じられるが、ヒカルはそんな事は構わず堂々としている。雰囲気が悪かったので教室から出る事にした。
なんとなくブラブラと無言で2人で歩いていたが、知らないうちに日頃あまり使われない実験棟に来ていた。誰もいない教室を選んで入った。
中に入ったもののまだしばらく無言でいた。そんな雰囲気に我慢できなくなったのかヒカルが俺のそばに来てキスをしようと抱きしめてきたが、俺はそれを軽く振り解いた。
光「なんだよ。しばらく会わないうちに嫌いになったのか?」
俺「嫌いじゃないよ。でもなんでみんな俺ばっかり相手にしてくれなくなったのさ。俺の方が嫌われたみたいじゃん」
光「そんな事ないよ。みんなおまえを大事に思っているはずさ」
俺「なら俺だって謹慎になっても良かったから、みんなと一緒にいたかったよ」
光「おまえがいなくたって俺達だけで充分だったさ」
俺「意味わかんないね」
光「いいんだよ、それで。理由なんかどうでもいいだろ!」
再度俺を抱きしめようとするが、それを無視し黙って部屋を出た。初めてヒカルに反抗していた。
苛立ち部屋を飛び出してきたが、ヒカルが後ろから追いかけてくる様子もないようだ。
ヒカルと深い仲になってから、本気で怒りをぶつけたのは初めてだと思う。ヒカルの態度に呆れてわざと苛立ってみせることはあっても、それはあくまで本気ではない事だ。今回はそれとは違う。
自分のクラスまで小走りに来たものの、教室には入らずそのまま通り過ぎて屋上まで来てしまった。今日は日差しが強い。いつもは暑さに閉口するだろうが、今はそんな事も感じる余裕もなくなってしまっている。
ヒカルに対してぶつけた気持ちだけは変えるつもりはない。ただ、いつも言葉の少ないヒカルに説明を求めても、それなりの答えが返ってくる事を期待するのは間違っていたかもしれない。なんとなく今まで心に溜まった気持ちを誰でもいいからぶつけたかっただけだ。今の気持ちをわかって欲しかっただけだった。
ヒカルは理解してくれたのか、それとも俺がキレた事に腹を立てているのか。それもわからない。
『もしこのままヒカルと話をする事もなくなったら?』
そんな事になるのだけはイヤだ。部屋を飛び出さずに、納得行くまで話してくれば良かった。
『少し後悔、いや、かなりの後悔か…』
自分の思っている事をわかって欲しいという気持ちと、ヒカルに対して荒れてしまった気持ち。両方が心の中で渦巻いて到底整理なんかできない。
これからどう行動すれば良いのか?
『いくら考えてもまとまらない…』
ヒカルとのつき合いはどうすれば良いのか?
『そんなの決まってるだろ!終わりになんかしたくない。ただそれは俺がそう思ってるだけで、ヒカルはどう考えてるか…』
やっぱり整理なんかできない。
『あーイライラする…』
チャイムが鳴った。イヤな音だ。いつも急かすように鳴る。いつも邪魔をする。もう少しここに居させて欲しいのに。考えがまとまるまで待って欲しかった。まぁ今日はいくら考えてもまとまるわけがないような気がする。ここにいても仕方ないか。
何か暑い。さっきまで気にしていなかったのに、急に暑さが堪えてきた。汗がでてくる。チャイムも日差しも俺にはムカつくものにしか感じられない。
『教室に戻らないと』
授業が待ってる。試験も近い。今日は勉強なんてしてても頭に入るわけがないが、でも仕方ない。
『今はあそこにしか居場所がないか…』

教室に戻ると、さっきまでジンが来ていた事を友達から伝えられる。
すれ違いだと聞いて半ばホッとする。会っても何を話していいかわからないし、きちんと話せるか今は自信ないから。とりあえず今は誰とも会いたくない気持ちの方が強い。
今日は午後2時間の授業だったが、やっぱり身が入らなかった。試験前の追い込み授業みたいな感じだったが、仕方がない事だと自分に納得させる。
授業が終わった後もしばらく帰らないでいた。人気がなくなってからゆっくり帰る。
どうやって帰ったかよく覚えてないが、いつのまにか家に着いていた。いつもの道を通ってきたのだろうけど。
家でもボーっと過ごす。宿題やって勉強してって感じだ。
夜遅くになって初めて気づいた。なんとなく視界に入った携帯のランプが点滅している。
『メールが来ているんだ』
今まで携帯があるって事に気が回らなかった。とりあえず確認してみると、予想通りジンとそしてヒカルだ。
仁『明日みんなで話そう』
ジンらしい簡潔な内容だ。返信を送る前にヒカルのメールを確認してみる。
光『疲れただろ?今日はゆっくりお休み』
両方とも短い内容だったけど、決して俺を責めてるような内容じゃない…。
メールが来て返さないのは俺にとって好きな事ではない。どんな時でも、送ってくる方の気持ちを考えれば返さずにはいられない。
とりあえずでいいから、なにか返しておかなければならない。
ジンには『分かった』とだけ打っておいた。
ただし、いくら考えてもヒカルには言葉が見つからない。
実験棟で突き放した時、ヒカルはどう思っただろうか。
ヒカルの顔が浮かんでくる。出会った時の無表情、はにかむ感じの笑い顔から段々とさまになって来てる笑顔。そして鏡の中のヒカル…。俺にとってはいつでも大事なヒカルだったはずだ。
もう一度メールを読み返す。…そして一言『おやすみ』とだけ打ち込んだ…。

次の日、いつも通りに学校へ行った。
体育の授業もあり、憂さ晴らしするように暴れ回った。いろいろ忘れたかったのかもしれない。
そして昼休みがきた。予想通りか、予想に反してか、ヒカルは来なかった。あまりに考え過ぎていたので、どっちを期待してたのか自分でも分からなくなっている。
そのまま何もないと思ったが、昼休みも終わる間際になっていきなりヒカルからメールが届いた。
光『授業終わったら、昨日の実験棟の部屋に来いよ。みんなも来るはずだから』
今は逃げずに思いを話すしかないかと思った。

授業を終え放課後実験棟まで行く。途中ヒカルのいる教室の前を通る。ちらっと担任の教師が話をしてるのが見えた。
『俺の方が先か…』
その方が都合が良い。途中でトイレに寄り鏡を見る。
『冴えない顔をしてる』
鏡を見ながら思い出すとまた苛立ちが出てきた。思う存分ぶつけるだけだ。
トイレを出て部屋の前まで来た。若干躊躇したが思いきってドアを開ける。
『まだ誰もいないや、ふぅ』
部屋を横切り窓際まで行って外を眺めていた。
『最近ずっと独りで外を眺めてたな…』
そう思ってるといきなり部屋のドアが開いた。ちょっとドキッとして振り返る。4人全員一緒に来たみたいだ。最後にヒカルが入ってきたのを見て、慌てて外を向く。
みんなは俺の周りに陣取った。椅子に座る物もいたりして俺を囲む。ヒカルだけは離れたトコに座った様だ。
仁「シュウ、独りで寂しかったんだって?ヒカルに聞いたよ」
こういう時の先導役は必ずジンだ。
俺「寂しくはないさ。ただなんか俺だけ相手にされてなくない?」
仁「そうじゃないんだ…」
この言葉を聞いて俺に火がついた。
俺「そうじゃない?なにがそうじゃないのさ!最近何をするのにも俺だけ呼ばれもしない。間違ってる?」
仁「間違ってないよ」
俺「なんだよその答えは!やっぱり俺だけ呼ばないって事か。1年の時からどんなワルサだっていつも一緒だったろ?」
実際犯罪になるような事はしないものの、喧嘩等スレスレな事はたくさんしてきたわけで…。
俺「いつでもみんな一緒でって事が俺達の取り柄だったはずだよ。いろんな事を一緒にやってきただろ?最近になって俺だけ呼ばれないなんて酷くない?」
こんなような事をおそらくかなり一方的にまくし立てたような気がする。
言い終えて少し間が空いたが、仁がゆっくり話し出した。
仁「4月の初めにさ、ヒカルだけはいなかったんだけど、俺達3人でいる時にF校の奴らに絡まれたんだよ。それで喧嘩になって初めて警察に捕まった」
俺にとっては初耳だ。予想外の話だった。
仁「今回と同じように悪いのは相手さ。警察じゃ怒鳴り散らされたり、かなりイヤな目にあったけどな」
3人で顔を見合わせ苦笑してる。
仁「そン時に、親とおまえの担任の○○(先生)も迎えに来た。アイツ学年主任だしな。警察以上にクドクド言われたよ。帰る時にイヤミな感じで『シュウがいなくて良かったな、フフッ』って言ってた。今考えれば顔はイヤミじゃなく真剣だったかもしれない。でも俺はさ、コイツ自分のクラスの奴の事しか考えてないのかよってずっと思ってたんだ。それで次の日にヒカルを交えて4人でいた時に、その話になったんだよ」
ジンがヒカルを見る。それにつられて俺もチラっと様子を窺う。ヒカルは何も聞いていないって様子で、窓枠に足を乗せボーっと外を見ている。
仁「ヒカルに言われて、俺達も前から心の中で考えていたことが判ってきたんだ。俺達はここの総合高校に入ってきて、これからそれぞれがいろんな道に進んでいくことになるよな。たった3年間だけの付き合いさ。それなのに俺らはいいかげんな奴ばっかだからさあ、まだ先行きなんて大して考えていないよな」
みんな頷いてる。
仁「でもさぁ、シュウだけは俺達とは違ってすでに進路を決めてそっちに向かって進んでるじゃん?」
俺「でもそれはさ…」
仁「まあいいから聞けよ。俺達とシュウはそういうトコが全く違うのに、シュウはそんなところを全く感じさせないで、普通に一緒にバカやったりふざけたりしてるだろ?俺達はシュウのそういうトコが好きだし、今までも一緒にいたんだよ」
俺「…」
仁「俺は実際に羨ましくも思うし、マジ頑張れって思ってるよ。だからさ、もう一回担任の言った言葉を考えてみな?警察沙汰になった時に『シュウがいなくて良かった』。ヒカルに言われて気がついたのはこれだよ。今は俺達みんなそう思ってるんだからさ。わかるだろ?」
俺「……」
仁「この間3年に呼ばれた時にも、シュウだけは誘うなってヒカルが言うから誘わなかったんだよ。俺達といる事でシュウの人生が狂うような事はしたくないんだ。そうなればシュウが一番ショックを受けるだろうし、俺達だって同じくらい一生辛い思いをしていかなきゃならなくなる。だから今回の事でシュウが怒ってるって聞いて、シュウが俺達と一緒に居たかった気持ちは充分理解できたからさぁ」
ジンは俺の顔をまっすぐ見てさらに言った。
仁「だから、お願いだから、俺達がシュウの事を大事に思ってる気持ちもわかって欲しいんだ」
俺の中で熱くこみ上げてくるものがあった…。窓に凭れかかったまま動けなかった。
俺は自分の事しか考えてなかった。孤独感とか切なさとか自分の感じるままに気持ちをぶつけてた。
謹慎が解けて、みんなを慰めなくちゃならなかったのは俺の方だったんだ。なのに…、それなのに…、俺一人だけ勝手に…。
俺「…ごめんね、みんな…」
ジンの顔も見れず、俯いたままそれだけしか言えなかった…。

引用なし

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