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さよならの向こう側には【涙の受験編、前編】30〜34
 長編編集部φ(..)  - 07/6/25(月) 21:28 -
夏休みを過ぎると、見た目がガラっと変わった奴がいたりする。
俺は『色が黒い』『髪が伸びた』と会う奴みんなに言われるから、結構変わった方かもしれない。コウとユタカ、それにカズヤには日焼けの事で驚かれた。
弘「いつのまに?どこかに行った?」
俺「まぁね」
家で焼いたという説明はしたくなかったからお茶を濁す。
豊「でもワイルドさが少し出てきて似合ってんじゃん」
弘「うんうん」
俺「ヒカルがさぁ、焼いた方がいいって言うからさぁ。でも似合ってるって言われて良かったよ」
和「そうかな?俺は前の方が好きだな」
やっぱりこういう事を言うのがカズヤだ。悪気はないはずだけど。でもいつもよりは言い方がキツいか…。
和「シュウは前の方が良かったよ。性格にも合ってたし。それに人に言われてやる事じゃないだろ」
弘「カズヤみたいにスポーツバカだけが日焼けが似合うってわけじゃないんだからいいだろ!」
少し場を和らげる様にコウが言う。チャイムが鳴ったのでそこで話が終わり席に分かれた。
昼にはヒカルが来た。今日は新学期の挨拶周りって感じで、ジン達のクラスに出向きみんなで話して過ごした。
何日か変わらず過ぎ、新学期にも慣れたある日、授業中にも関わらず突然携帯にメールが届いた。見るとカズヤからだ。俺はなぜか急にドキドキし出していた。
真面目なカズヤが授業中にメールを送ってくるなんて、それだけでも少し驚きだ。さらに夏休み中のメールの事も頭を過ぎり余計緊張してしまう。
少し前方に座ってるカズヤを見るが、全く俺を気にせずに授業に集中している様子だ。
『いつの間にメールを打ち込んだんだろ』
そう思いながらも、今すぐ見るべきか後で確認するべきかをしばらく考える。
後で見てもいいけど確認するまでずっと不安なままでは落ち着かない。仕方なく誰にも気づかれないようにメールを確認した。
和『昼に少し話さないか?』
なんの飾りもないストレートな内容だ。
ノートの間に携帯をはさみ、素早く返事を打ち込む。これに対する返事は難しい事ではないから即答できる。
俺『昼休みは無理だよ』
ヒカルが来るかもしれない事を考えれば当然の返事ではある。
送信してカズヤを見る。手がゆっくりと足の間に入る。
『なるほど、太股の間に携帯を挟んでいるのか』
机の下で確認している様だ。読み終わった後、少し頭を挙げて考えている様子。そしてまた下を見て打ち込み始めた。しばらくしてメールが届く。
和『なにか用事があるわけ?』
ヒカルが来るとは言えない。
俺『特別にはないけど、ただなんとなく』
嘘をつくのもイヤだし、かといって理由も見つからないから、そんな返事しか返せなかった。
和『なら決まりだな。場所は俺が決めてもいいか?』
昼休みに会う事にOKしたはずではないのに一方的に決める気でいる。
俺『昼はできるだけ避けて欲しいんだけど』
和『特に用事がないならいいだろ?』
曲げないようだ。仕方ないかと一瞬考える。ただヒカルの事を思い浮かべればやっぱり絶対に避けなければならない。
俺『昼休みはダメ。今日どうしてもって言うなら午後の授業を休んで話す?』
到底カズヤには承諾できない内容だ。ただし昼がダメなら他を考えるしかないから、ちょっと答えにくいだろうなとは思ったし、カズヤからの答えも想像できたがとりあえず送信してみた。きっと答えは『じゃ別の日にしよう』そんなところだろう。
カズヤが机の下で打ち込んでいるのが見える。そして返ってきた。
和『わかったよ。昼休みが終わったら教室にいるから声をかけてくれよ。場所は部室でいいか?その時間なら間違いなく誰も来ないからさ』
驚きの答えが返ってきて、思わず声を上げそうになった。
カズヤが授業をサボるとは思ってもみなかったし簡単にOKしたので慌ててしまった。でもそこまで言うなら話につきあうしかない。日頃俺のいい加減さを批判気味に突っ込む事があるから、逆に突っ込み返す良いネタになるかもしれないとも思える。どんな話になるか不安に思いながらも午後を待つ事にした。
昼休みになって4人で飯を食べ終わった頃にヒカルがやってきた。2人で屋上に行く。
夏の終わりの日差しと風を浴びながらゆっくりと過ごす。
光「近いうち買い物に行かないか?」
俺「なにか欲しいものあるの?」
光「まぁね」
俺「いいよ」
光「じゃ週末くらいな。次体育だから着替えないとならないし今日は早めに戻るよ」
俺にとっても都合がいい。ヒカルと別れ教室に戻った。
教室に戻り見渡すとカズヤと目が合う。それだけで理解した様だ、すぐに立ち上がり外に出てくる。
校舎を通って部室まで歩く事になった。
俺「大丈夫なの?授業サボって」
和「じゃないと話できないだろ?」
俺「カズヤは断るのかと思ったよ。日頃から真面目だしさ」
和「俺ってそう見える?」
俺「見えなくはないね」
軽く笑いながら言う。
和「遠回しだけど正直な答えだな」
カズヤは笑わない。
俺「ホントに大丈夫?」
和「シュウは平気なのか?」
俺「俺は時々サボってるから。知ってたでしょ?」
和「うん。実際には羨ましく思ってた」
俺「羨ましい?」
和「俺にはできない事だからさ。でも今日はいいよ、誘ったの俺だし」
俺『そこまでして何の話をするの?』
そんな事を聞いて、その場の雰囲気を壊すような事はしたくなかったので黙っていた。
体育館の脇を抜けようやく部室まで着いた。
俺「なんか部室って中がどんな風になってるか興味あるね」
率直な気持ちを言ってしまいマズかったかなって思う。
和「そんな大した事ないよ」
入ってみて割合きれいな事に気づく。ラグビー部の部室なんてもっと散らかっていていて男臭い感じなのかと思っていた。
和「部長が汚いとうるさいからさ。いつも1年がきれいにする事になっているんだよ」
俺「ふ〜ん。ラグビー部ってそういうの厳しいの?」
和「そうだよ。まぁ汚さなきゃいいんだし。隣りの野球部なんてすごいんだぜ」
カズヤがちょっと笑った。人前ではニコリともしない時があるが、予想外に間近で見る笑顔は爽やかだ。なんとなくヒカルの最初の頃を思い出す。俺の周りにそう言う奴が集まるのか、俺のタイプがそうなのか少し考えてしまう。
部室の奥にベンチがあったのでそこに座ると、カズヤは向かい側の壁に寄り掛かった。
すぐに授業の始まりを告げるチャイムが聞え出す。
俺「あ〜戻れなくなっちゃったね」
和「構わないさ。今日は俺が話したかったんだし」
俺「そっか。カズヤとゆっくり話せるなんて今までなかったから楽しみだよ」
和「俺はシュウの事を羨ましく思ってたんだよ。だから話してみたかった」
俺「羨ましい?どこが?」
和「う〜ん、そうだな…自由なところとかかな」
俺「あはは、そんなトコか。違うトコなら良かったな」
和「えっ?なんかマズい事言った?」
俺「別に。でも実は俺もカズヤに憧れてた」
和「はぁ?俺には何もないだろ」
俺「そんな事ないよ。勉強はトップクラス、スポーツは万能、それでカッコ良いし言う事ないじゃん」
和「えっ?そんなに誉められた事ないよ」
そう言って苦笑してる。
俺「カズヤは鈍感だから気がつかないんだよ。結構モテるはずだよ」
和「そんな事ないさ。好きな奴がいても度胸ないから話しかける事もあまりできないし」
俺「日頃あまりそういう話に加わらないけど、今好きな奴いないの?」
しばらく考えている風だ。
和「好きな奴はいるかな。ほとんど無視されてるけど」
俺「へぇ〜誰?」
俺『そりゃカズヤだって男だし好きな女の子くらいいるよな』
何気に期待してた部分もあったが少しだけガッカリした。それよりもいつものカズヤと違って照れ臭そうな顔をしてるのが妙にウブな感じに見えて楽しい。
和「言えないよ」
俺「なんでさ!別に話してくれればいいじゃん」
和「好きとかそういう気持ちじゃなくて、まだ一緒にいたいとかって気持ちだけだしな」
俺「つき合いたいとか思わないの?」
和「まだよくわからないな。俺好きな奴を苛めたくなっちゃうっていうか、あまり素直になれないっていうかさ」
俺「あ〜、子供の頃によくあるっていう気持ちかぁ。コクる事はできないの?」
和「無理無理。死んでも無理」
俺「なんで?」
和「なんとなくコクったら一生嫌われそう」
俺「大丈夫だって!カズヤを嫌う奴なんていないよ。もしそうなら俺が面倒見てやるから」
和「マジ?どんな面倒だ?」
そう言って笑っている。やっぱり話し出せば結構会話が繋がるし明るい気持ちになる。
俺「そうだな〜、じゃ抱きしめてやるから胸の中で泣くとかかな」
俺「そんなんじゃつまらないよ」
そう言ってベンチに座ってる俺の横に腰を下ろした。2人だけだとドキドキする距離だ。
カズヤが近くにいるだけで少し緊張してしまう。できるだけ気持ちを悟られないように冷静を保っていた。
俺「まぁ、フラれてもカズヤには次があるはずだから、気にせずにチャレンジしてみれば?」
和「そうかなぁ。どうやったらうまくできるのか教えて欲しいよ。ところでシュウはつき合ってる奴いるの?」
ストレートに聞かれてドキっとする。答えるのに苦労する内容だ。やっぱり素直に答えるしかないか。
俺「好きな人はいるよ。相手も俺の気持ちは分かってる」
言った後にカズヤの顔を見て様子を窺う。カズヤは組んだ足の先をぶらつかせながら、つま先をじっと見てる様だ。
和「そっか。つきあってる奴がいるんだ。どんな奴?」
こっちの方がさらにキツい質問だ。慎重に答えないとならない。
俺「う〜ん、なんか手に負えないところがあるかな。俺が振り回されるっていうかね」
とりあえずは正直に答えてみた。
和「尻に敷かれてるの?」
俺「そういうわけじゃないけど自己主張が強いっていうか、わがままっていうかね」
そう言って苦笑してしまう。
和「でも好きって事なのか?」
俺「うん」
和「相手はシュウの事をどう思ってるの?」
俺「いつも一緒にいるし嫌われてはいないと思うけど、どう思ってるかはわかんないね」
その話を聞いた後、しばらくカズヤはじっと俺の顔を見ていた。さっきまでよりも少しキツい目に見える。『ヤバい』そんな雰囲気がして目を反らしてしまう。
和「もしかして俺の知ってる奴じゃない?」
見透かしたような質問で、なんと返したらいいのか分からない。知らないうちにカズヤのペースに乗せられてつい話してしまっていた。カズヤはすでに察しているのだろうか。
俺「そうだね。知ってるかもね。同じ学校の奴なんだし知ってるのは当たり前だと思うよ」
なんとか平静を装って逃げようと必死になる。
和「そういう事じゃなくて俺がもっと良く知ってる奴じゃないかって事だよ」
俺「それはよく分からないよ」
カズヤは手を緩めない。カズヤの性格はこういうところに出ていて厳しさもあり怖くもある。
和「じゃ俺から名前言ってみようか?それで当たったら答えてくれるだろ?」
俺「イヤだよ。俺ばっか攻められてるみたいじゃん」
笑ってごまかす。
その時遠くでチャイムが鳴った。救いの鐘だ。これでカズヤは諦めて教室に戻ると言うだろう。


引用なし

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